亡くなった人が遺言書で自分に遺産を譲ると書いていた場合、その遺産は必ず受け取らなければならないと思い込んでいる方は、意外と多いのではないでしょうか?
でも、もし親が借金を抱えたまま亡くなったときに、それを遺産として絶対に譲り受けなければならなかったとしたら嫌ですよね。
そんな場合のことを考えて、遺産はたとえ遺言書で書かれていたとしても、自由に放棄することができるようになっているのです。
今回は遺贈についての基礎知識と放棄する前に注意しておきたいこと、遺贈の放棄方法を遺贈の種類別にご紹介します。
1.遺贈とは
遺贈とは、遺言によって他者に財産を無償で譲る行為のことをいいます。
よく贈与の一種である「死因贈与(しいんぞうよ)」と混同してしまう方がいるのですが、お互いに契約を結ぶことで成立する死因贈与に対し、遺贈は遺言を残す人の意思だけで成立する単独行為となっています。
遺言を残す人のことは「遺贈者(いぞうしゃ)」、遺言によって指定された人のことは「受遺者(じゅいしゃ)」といいます。
2. 遺贈放棄のタイミング
遺贈者から指定された受遺者が、その財産の取得を望まない場合には、遺贈者の死亡後であればいつでも遺贈の放棄をすることができます。
ただし、後述する「包括遺贈」や「負担付遺贈」の場合は、期限が3ヵ月以内と決められています。
2-1. 遺贈が放棄されるとどうなる?
遺贈の放棄がされた場合には、その遺贈がなかったものとなり、遺書に書かれていた財産は、遺産として法律上の相続人に相続されることになります。
2-2. 遺贈を放棄しても相続権は失わない
相続権のある人が受遺者だった場合は、遺贈を放棄しても相続権を失わないため通常の相続をすることができます。
ただし相続人でない人が遺贈を放棄すると、その人は遺産を相続する方法がなくなってしまうので注意しましょう。
3.遺贈の種類と放棄の方法
遺贈にはいくつかの種類がありますが、それぞれ放棄の方法に少しずつ違いがあります。
放棄の方法と一緒に、遺贈の種類についても覚えておきましょう。
3-1. 包括遺贈の放棄
「包括遺贈(ほうかついぞう)」とは、遺贈者の遺産を「すべて」「2分の1」「3分の1」というように、割合を定めて譲る遺贈のことです。
包括受遺を受けた包括受遺者は、民法990条によって相続人と同一の権利義務を有すると定められているため、遺贈者に負債がある場合はそれも一緒に引き継ぐことになります。
包括遺贈は、そういった負債を抱えることを避けようとする受遺者によって、放棄されるケースが多くなっています。
第990条
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
【放棄の方法】
包括遺贈の放棄は「自分が包括受遺者であることを知ったとき」から3ヵ月以内に、家庭裁判所へ包括遺贈の放棄の申述をしなければなりません。
なお、包括遺贈の放棄の申述をすると、マイナスだけでなくプラスの財産も遺贈されなくなるので注意しましょう。
3-2. 特定遺贈の放棄
「特定遺贈(とくていいぞう)」とは土地や預金口座といった、特定の財産を譲る遺贈のことです。
特定遺贈は包括遺贈と違って、財産以外の権利や義務を引き継ぐことがないため、マイナスの財産を引き継ぐことはありません。
【放棄の方法】
特定遺贈の場合は放棄をするまでの期限が特に決められておらず、遺言の効力が発生したあとであればいつでも放棄ができます。
また、家庭裁判所への届け出をする必要もなく、口頭で放棄をする旨の意思表示をするだけで放棄が成立します。
ただし、相続人から特定遺贈を承認するかの意思表示を迫られているにも関わらず、どちらの意思表示もしないでいると、自動的に「承認した」とみなされてしまいます。
特定遺贈の受遺者は、その点には注意しましょう。
3-3. 負担付遺贈の放棄
「家を住宅ローンの残り分も含めて遺贈する」というように、遺贈者が受遺者に対して財産を譲る代わりに「対価にあたらない程度の一定の義務」を負担してもらう遺贈のことを「負担付遺贈(ふたんつきいぞう)」といいます。
プラスの分を超えてはならないと決められているものの、財産をもらう代わりに自分にとってマイナスとなる義務も負担しなければならないため、負担付遺贈を放棄する人は少なくありません。
【放棄の方法】
負担付遺贈の放棄の方法は、通常の遺贈と同じです。
特定遺贈の場合はいつでも放棄できます。
包括遺贈の場合、「自分が負担付遺贈を受けることを知ったとき」から3ヵ月以内であれば、自由に放棄することができます。
放棄の申請は、家庭裁判所へ相続放棄の申述書を提出する必要があります。
参考:裁判所 相続の放棄の申述書(20歳以上)
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13/
4.放棄する前に注意しておきたいこと
どの種類の遺贈も自由に放棄をすることはできますが、受遺者は一度遺贈の放棄(もしくは承認)をすると撤回ができなくなります。
これはいったん放棄や承認をした遺贈が簡単に撤回できると、受遺者と利害関係にある人に思わぬ不利益がもたらされてしまう可能性があるからです。
5.まとめ
受遺者が遺贈を放棄するか承認するかによって自分はもちろんのこと、その周りの人間にも人生が変わるほどの大きな影響がおよぶことがあります。
そのため受遺者は「自分が遺贈を放棄した場合にどんな事態が発生するか」ということについても気にした上で、遺贈を放棄するか決める必要があります。
遺贈の放棄については、よく考えてから決めるようにしましょう。