遺言書で書かれた内容を相続放棄できるのか、疑問に思ったことはないでしょうか?
遺言により、財産を無償または一定の負担付で受け継ぐことを遺贈といい、相続人や相続人以外の人に対して行われます。
この遺贈は、必ず財産を引き継がなければならないわけではなく、放棄をすることも可能です。
しかし、遺贈にも種類があり、それぞれの種類によって放棄の手続きは異なります。
そこで今回は遺言書で書かれた内容を放棄するための方法や注意点を詳しくお伝えします。
1.遺言に書かれている内容は放棄できるのか
遺言により被相続人の財産を無償または一定の負担をつけて譲ることを「遺贈」といい、遺贈により財産を受け取る人のことを「受遺者」といいます。
遺言書には被相続人の意思や願いなどが込められていますが、受遺者および相続人は必ずしもその遺言書に従う必要はなく、相続放棄によって遺贈を受け取らないという選択も可能です。
遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」があり、この種類によって放棄の方法が異なります。
2.遺贈の放棄
2-1.特定遺贈の場合
特定遺贈とは「土地を与える」「車を与える」など、どの財産を与えるのか指定することを意味します。
この場合は、相続人もしくは遺言執行者へ意思表示を行うことで放棄が可能となります。
また民法986条により、遺言者の死亡後であればいつでも相続の放棄ができ、その放棄は遺言者の死亡時にさかのぼって効力を生じます。
第986条
1.受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2.遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
2-2.包括遺贈の場合
包括遺贈とは、「相続財産の25%を与える」「相続財産の4分の1を与える」など財産の割合を指定する方法です。
この場合、受遺者は相続人と同じ権利を持つこととなり、プラスの財産もマイナスの財産も両方引き継ぐことになります。(民法990条)
また放棄をするには家庭裁判所へ包括遺贈の放棄の申述を行う必要があり、その手続きは受遺者であることを知ったときから3ヶ月以内と定められています。
2-3.遺贈を放棄した場合
遺贈を放棄した場合、引き継ぐはずだった財産は、相続財産の対象となり、法律上の相続人が引き継ぐことになります。
また法律上の相続人が遺贈を放棄しても、引き継ぐはずだった財産は相続財産として遺産分割の対象となります。
遺贈の放棄と同時に、相続権も失うわけではないため、財産を一切引き継がないようにするためには、相続放棄も行う必要があります。
3.相続放棄
3-1.相続放棄とは
相続放棄とは読んで字の如く、相続権を放棄することです。
相続は通常、現金や不動産といった「プラスの遺産を引き継ぐこと」と、住宅ローンや借金など「マイナスの遺産を引き継ぐこと」がセットになっています。
そのため相続放棄には、借金などは背負わなくてもよくなる代わりに現金や不動産も手に入らなくなるという性質があります。
また、相続放棄をしたい場合には、手続きを3ヶ月以内に行わなければならないという決まりがあります。
3-2.手続きに必要な書類
相続関係により異なりますが、主に下記の書類が必要となります。
・相続放棄の申述書
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・放棄する人の戸籍謄本
・放棄する人1人につき収入印紙800円分
・郵便切手
3-3.相続放棄の手続きの流れ
まず、上記で示した書類を準備しながら相続財産について調査をしましょう。
そして、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ3ヶ月以内に相続放棄の申し立てを行い、家庭裁判所から照会の郵便が届けば回答し、問題なければ相続放棄の申述が受理されます。
あとは家庭裁判所から通知書が届けば手続き自体は完了になりますが、債権者から要望があった場合には必要に応じて相続放棄申述受理証明書の申請を行いましょう。
3-4.相続放棄をする際の注意点
3-4-1.相続放棄は3ヶ月以内に
相続放棄をしたい場合、相続の開始を知ってから3ヶ月以内に申請しましょう。
「相続の開始を知ってから」というのは、「被相続人が死亡し、相続すべき財産の全部または一部を認識した時から」という意味です。
3-4-2.被相続人の財産に手を付けると単純承認したことになる
被相続人の財産に手を付けると相続放棄ができなくなります。
つまり、被相続人の預貯金から一部を引き出し生活費に充てた場合や、不動産や車の売却または名義変更などをしてしまうと相続放棄できなくなるということです。
ただし、相続人が生命保険の受取人に指定されていた場合は、相続放棄をしても保険金を受け取ることができます。
4.まとめ
遺言に書かれているからといって、必ずしもその内容の通りに引き継ぐ必要はありません。
「土地を与える」「車を与える」といった特定の財産が指定されている特定遺贈の場合には、意思表示をするだけで放棄を行うことができます。
しかし、「相続財産の25%を与える」「相続財産の4分の1を与える」など財産の割合を指定されている包括遺贈の場合には、遺贈放棄の申述の手続きが必要となります。
また、遺贈の放棄は自由に行うことができますが、一度放棄をすると撤回をすることができなくなるため、注意が必要です。
なお、相続人の場合は、遺贈の放棄をしても、相続権も同時に放棄することはできません。
なので、一切の財産を引き継ぎたくない場合には、さらに相続放棄の手続きを行う必要があるため、留意しておきましょう。