人生で一番大きな買い物はなんでしょうか?
ほとんどの方がこの質問に対し、「住宅購入」と回答するのではないでしょうか?
預貯金など「自己資金」で全額を賄う方ばかりではなく、親世代から補助を受ける家庭も多くあるでしょう。
この住宅購入において、生前に非課税で贈与できる制度があります。
それが「相続時精算課税制度」です。
「相続時精算課税制度」はどのような場合に利用できるのでしょうか?
制度を利用した相続のメリット・デメリットについて解説します。
まずは贈与税の申告状況が近年どうなっているのかを見ていきましょう。
1.贈与税の暦年課税について
1-1.贈与申告の推移状況
2015年1月に行われた相続税改正。
最近この相続税課税を回避するため、贈与税の活用を検討する方が増えています。
財務省の発表によると、平成26年度に贈与税の申告書を提出した人は約51万9,000人。
平成25年度の約49万1,000人から、約2万8,000人増加しています。
そのうち納付額のある申告は平成26年度で約36万6,000人。
全体のおよそ7割にとどまっています。
出典:財務省 贈与税の申告状況
https://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2014/kakusihin_jokyo/index.htm
1-2.贈与税の基礎控除とは
贈与税の基礎控除は、「法定相続人1人あたり年間110万円まで」です。
贈与税は相続税のような定額控除がなく、所得により最大55%(平成27改正以降)もの高い税率が課せられます。
また、相続人1人への集中した財産譲渡を避けるため、「相続開始3年以内の贈与は相続贈与」という決まりがあります。
基礎控除額以内の贈与も、贈与申告を行う必要があります。
2.相続時精算課税制度について
生前贈与において、注目されているのが「相続時精算課税制度」です。
この制度を活用するには、贈与の対象が法定相続人の場合(推定相続人、といいます)に限定されています。
<相続時精算課税制度の概要>
①2,500万円までは非課税で贈与が可能
②2,500万円を超える部分については、20%の贈与税がかかる
③相続時は贈与財産と相続財産を合算し、支払った贈与税を相続税から控除
④60歳以上の親から、20歳以上の子に適用できる
具体的な例を見てみましょう。
現在財産を所有している人をAさん、法定相続人で財産を受け取る予定の子どもをBさんとします。
贈与時にAさんは2,500万円を超える部分の贈与税(20%)のみを支払い、その後のAさん死亡時(相続時)に、Bさんは贈与財産と相続時の財産を合算して相続税を算出し、すでに支払った贈与税を相続税から控除します。
適用には年齢条件があり、贈与者の年齢制限を60歳以上、同じく受贈者には20歳以上の子や孫、という条件があります。
この年齢条件は「贈与時」ではなく、「贈与をした年の1月1日における」という条件のため注意が必要です。
当初、贈与者は65歳以上、受贈者は子のみの適用だったのですが、平成27年以降の贈与から拡大しています。
贈与できる資産は現金のみのため、株や不動産の譲渡には適用されません。
手続きとしては、この規定を利用して「贈与税が課されない場合」も、贈与税の申告書を確定申告(贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで)に提出することが決められています。
所得税の確定申告がない場合も同様です。
2-1.相続時精算課税制度は住宅購入に活用できる!
相続時精算課税制度は、子の住宅購入をする際に使われます。
まとまった預貯金を子世代に移せるうえ、相続時にも贈与税として納めた金額を控除できるため、「俯瞰的に相続を見やすい」ことがこの制度の大きな特徴です。
2-2.相続時精算課税制度の注意点
相続時精算課税制度は、同じく親から子供への贈与を非課税とする「住宅資金等贈与の非課税措置」と併用ができますが、こちらは「贈与を受けた翌年3月15日まで物件引渡しを受け、すみやかに入居しなければいけない」や「住居が適切な大きさである」という条件があります。
また、贈与税が2,500万円まで非課税、超過分も少額の課税で済むメリットがある一方、相続税精算課税制度をいったん利用すると、通常の110万円の課税(暦年課税)には変更ができないことに注意をする必要があります。
3.父親と母親で別々の贈与方法を利用する
贈与の方法は、父母ごとに選択が可能です。
父親からの贈与は年110万円までの暦年課税制度とし、母親からは相続時精算課税制度の適用を受けることができます。
また、夫婦が両親から贈与を受ける場合は、両方からそれぞれ精算課税制度の適用を受け、非課税枠を2,500万円×2の5,000万円まで拡げることも可能です。
以上のことからも、相続時精算課税制度は、まとまったお金を次世代に移すのに適した制度といえます。
4.まとめ
相続時精算課税制度の制度やメリットは、住宅購入に活用できる制度として浸透しています。
ただ、一度利用すると暦年課税に変更できないデメリットもあるため、この制度を利用できる贈与時だけではなく、相続時を見据えた俯瞰的な視点で考えることが必要です。
専門家をうまく活用しながら、相続に向けた形作りを進めていきたいものです。
<プロフィール>
FP事務所MYS(マイス)代表
工藤 崇
1982年北海道生まれ。北海学園大学法学部卒業後上京し、資格試験予備校、不動産会社、建築会社を経てFP事務所MYS(マイス)設立、代表に就任。
雑誌寄稿、WEBコラムを中心とした執筆活動、個人コンサルを幅広く手掛ける。ファイナンシャルプランナー。