なぜ辞任にも制限が生じるかというと、遺言執行者だけの判断でされた一方的な辞任によって、相続人に損害を与えないためです。
3.遺言執行者の指定がなかった場合
3-1.どのように手続きを進めていけば良いのか
遺言書に遺言執行者を指定する旨の記載がなかった場合や、指定されていた方が亡くなっていたり、辞退をされた場合、相続人や受遺者は家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます。
3-2.選任手続きの仕方
遺言執行者の選任申し立てをする場合、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所にて申し立ての手続きをします。
3-3.必要な費用
・執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円分
・連絡用の郵便切手(通知される家庭裁判所により異なります)
3-4.必要な書類
・執行者の申し立て書
・遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本
・遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
・遺言書の写し、または遺言書の検認調書の写し
・利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本)
4.遺言執行者が必要な場合
遺言執行者が必ず必要な場合があります。それは、①相続人の廃除及びその取り消し②認知の2つの場合です。
必ずしも必要でない場合でも、以下の様な場合には指定の要否を検討することをおすすめします。
・相続人が、兄妹姉妹などのように多い場合
・揉めそうな場合
・遺贈を考えている場合
・銀行口座が多かったり、不動産登記が必要など、手続きが多岐に渡る場合
・寄付をする場合
4-1.相続人の廃除及びその取り消し
生前に親族間で揉め事などがあり、被相続人の方が相続人の中にどうしても財産を遺したくない!と思っている場合、遺言書にその意思を遺すことができます。
ですが効力のある遺言書に「相続させない」と記載したとしても「遺留分」という最低限の財産を受け取る権利が保護されています。
その遺留分も含めて一切の相続権をなくすことができるのが「相続人の廃除」です。
ただしこれは、家庭裁判所に審判を申し立て、認めてもらってから初めて廃除ができるものです。
相続人の廃除の旨が遺言書に記載されていたのに、遺言執行者の指定はなされていなかったとします。その場合、他の相続人が廃除の記載をされていた相続人に対して廃除の請求を行うことはできません。排除の請求は、遺言執行者のみができる業務です。
そうなると遺言執行者の選任申し立てを行わなければならず、相続手続きに時間がかかってしまいます。
なお、相続人廃除の請求が認められることは、実務上は非常に少なくなっています。相続人の地位を奪うことは、憲法29条3項に定める国民に対する財産権の保障に関する条項と関連するため、裁判所としてはかなり厳格な要件を求めるからです。
4-2.子の認知
仮に、被相続人に愛人がいたとします。その愛人との間に子が生まれたとして、その子を被相続人が遺言書にて「認知する」と意思を遺したとします。
その時に、子の認知手続きを行えるのは、遺言執行者のみです。
子の認知となると、おそらく他の相続人の方と揉め事になることが予測されますので、遺言書を遺される場合には遺言執行者の指定をしておくべきでしょう。
まとめ
今回は、遺言執行者とは何なのか、その業務内容や重要性、遺言執行者の指定がなかった場合にはどうしたら良いのか、また、遺言執行者が必要な場合のケースについてご紹介させていただきました。
財産を遺される方は、ご自身の気持ちを託すために遺言書を遺したいと考える方は多くいらっしゃいます。ですが、そこには遺言執行者という役割が重要になってくるという点は盲点のようです。
特に、自筆証書遺言書を作成されていた場合、この遺言執行者の記載が抜けているケースをよく目にします。
指定されているのとされていないのとでは、相続発生後の手続きのスピード感にかなり差が出てきます。相続発生後、相続人の方の負担を少しでも減らすために、今回の記事をご覧になりこれから遺言書を作成される方はご留意していただき、また、すでに遺言書を作成されていらっしゃる方はチェックをしていただければと思います。
著者:相続ハウス 栗田 千晶(相続診断士)
監修:司法書士法人おおさか法務事務所