借金があるのがわかっているから、今のうちに相続放棄をしておきたい。
揉め事に巻き込まれたくないから、事前に相続放棄をしておきたい。
今の家族には嫌な思いをさせたくないから、先妻の子供に相続放棄をしてもらいたい。
等、相続が発生する前から相続放棄を考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、生前に相続放棄はできるのか、どのような方法があるのか、相続放棄はどのようにして行えば良いのかわからないという方もいらっしゃると思います。
今回は生前にできる対策、相続放棄の手続きや必要書類、注意点等についてご紹介いたします。
1. 相続放棄とは
「相続放棄」とは、相続財産の全て(プラスの財産もマイナスの財産も全部)を相続しないという意思表示をいいます。
相続放棄をした者は、その相続に関してはじめから相続人でなかった事とみなされます。ですから、代襲相続も認められません。
代襲相続とは、本来血族として相続人になるはずだった人が、相続開始以前(同時死亡を含む)に死亡していた時などに、その子や孫が代わって相続人になるという制度です。
2. 生前の相続放棄
相続放棄は、相続権が発生してからする放棄の手続きになりますので、生前にすることはできません。
理由としては、相続放棄自体が、誰かが亡くなると発生する「相続」を「放棄」することだからです。したがって「相続」が発生していない限り放棄もできないのです。
3. 相続をしない(させない)ために生前にできる対策
3-1.遺言書を作成する
3-1-1.遺言書とは
遺言書とは、故人が自らの死後のために遺した言葉や文章のことをいいます。
遺言書は、相続人同士の争いを防ぐほか、自身の最後の想いを遺す重要な役割を果たします。遺産の相続をスムーズに行い、相続人同士の争いを防ぐには、遺言書は欠かせないものです。
また、遺言書の内容は原則として法律で定められた相続の規定(法定相続分)よりも優先されることになります。
3-1-2.遺言書で相続放棄をさせることができるのか
遺言書によって、特定の相続人に財産を相続させないとすることはできますが、それだけでは、完全に相続放棄をさせることはできません。
すなわち、遺言書では、相続分の指定をすることができます。相続分の指定とは、遺言者が相続人の中の1人または複数の者に対して、相続する財産の割合を指定することをいいます。
この指定により、特定の相続人に財産を相続させない遺言書を遺すことができます。
ただし、相続放棄をさせるといった内容の遺言書を作成したとしても、相続人には「遺留分」という権利で一定の相続分は守られているため、完全に相続放棄させることはできないのです。
3-2.遺留分の放棄をさせる
3-2-1.遺留分とは
「遺留分」とは、相続によって遺された家族が生活に支障をきたさないように一定の相続人に対して保障をしてくれる最低限の相続割合として法律で定められているものです。
基本的には、亡くなった人の意思を尊重するために遺言書の内容は法定相続分よりも優先されるものですが、例えば「長男だけに財産の全てを遺す」という内容の遺言書を遺されてしまうと、財産を遺してもらえなかった他の家族は生活に支障が出てきてしまうかもしれません。
そのような事を防ぐためにも、最低限相続できる財産を「遺留分」として保障しているのです。
遺留分は、兄弟姉妹を除く、法定相続人に保障されています。
自身の遺留分を請求するには、遺言書により財産を取得した人に、「遺留分減殺請求」をする必要があります。ですから、この請求がなされなかった場合には、実質的に遺言者の指示通りに財産を遺すことができることになります。
この権利は、相続開始後、自分の遺留分が侵害されていることを知った日から1年。もしくは、知らなかった場合でも相続開始から10年を過ぎると時効となってしまいます。
遺留分減殺請求とは、遺留分を侵害されている相続人が、遺留分を侵害している受贈者や受遺者、あるいは他の相続人に対してその侵害額を請求することをいいます。
3-2-2.遺留分の放棄とは
遺留分減殺請求をされない様、生前にできる対策として、遺留分の放棄という制度があります。
例えば、生前に遺言者と相続人の間で、財産を長男に多く遺すと言っていたことに、他の子供たちもその時は了承してくれたとします。ですが、人の気持ちほど変わりやすいものはありません。
いざ相続が起こり、遺言書の内容通りに長男が財産を多く取得しようとした時に、他の子供たちに遺留分を請求されてしまったら、それまでです。
そこで、相続の生前放棄は認められていませんが、遺留分の生前放棄は法律上で認めているのです。ただし、遺留分の放棄は、必ず家庭裁判所の許可を得ていなければなりません。口約束では効果がないので注意してください。
3-2-3.遺留分の放棄を行う手順と必要書類
・放棄の申立てをする人
⇒相続人(財産を取得する権利のある人)
・放棄の時期
⇒相続が発生する前
・放棄の申立てをする場所
⇒被相続人の住所の管轄の家庭裁判所
・申立てに必要な書類
⇒申立書、被相続人の戸籍謄本、申立人の戸籍謄本。
・申立ての費用
⇒収入印紙代800円、連絡用の郵便切手(金額は申立てをする家庭裁判所により異なります)
3-2-4.家庭裁判所が許可する基準
この遺留分の放棄ですが、申立てをすればすべて許可してもらえるというわけではありません。家庭裁判所が遺留分の放棄を許可する基準は以下の点です。
- 放棄が本人の自由意志に基づくものであること
- 放棄の理由に合理性と必要性があること(建物や、農地の細分化を防止するため等の理由は合理性・必要性があるといえます)
- 代償性があること(特別受益分があるか、放棄と引き換えに現金をもらうなどの代償がある等)
家庭裁判所は、放棄が本人の意思から出たものであるか、相続人の利益を不当に害するものでないかを審理します。
3-2-5.遺留分の放棄の注意点
遺留分の放棄がされていても、相続の放棄はされていないので、相続権は残ります。