被相続人は、遺留分の放棄によって得た財産の自由分を遺言書によって活用しないと、意味がありません。遺言書が残されていなかったがために遺留分の放棄をした相続人の相続権を主張され、法定相続分で分割することになっては、遺留分の放棄をした意味がなくなってしまうので、注意が必要です。
「相続放棄」と「遺留分の放棄」は別物としてお考え頂くと良いでしょう。
3-3.生前の念書や契約書の効果
生前の相続放棄は、念書や契約書によってもできないと定められています。
このような方法で、生前に相続放棄の合意をした場合、精神的・感情的に守らなければならないと思わせることはできたとしても、法律上は無効になってしまうのです。
生前に口約束で相続放棄の了承を得たり、念書や契約書を交わしていても、生前の相続放棄にはならないと理解しておきましょう。
3-4.生前の遺産分割協議の効果
生前に遺産分割協議書を作成し、あらかじめ相続人全員の署名捺印をしておけば良いのではないでしょうか。
こちらも原則としては無効です。
本来、遺産分割協議書は相続が開始した後に作成するものです。
とはいうものの、生前にこれを作成し、日付を空欄にしておいて用意しているご家族もいらっしゃるかもしれません。ですが、相続が発生した後、相続人の1人がこれに異論を唱えられてしまったら、あらかじめ署名捺印しておいたとしても法律上全く効力はありません。財産の範囲は、相続の開始によってはじめて確定するので、相続に関する約束や協議は、相続が開始した後に各相続人の意思によって行われるものだからです。
4. 相続発生後の相続放棄
相続放棄には、大きく分けて2つ、裁判所で行う法律上の相続放棄と遺産分割協議書で行う事実上の相続放棄があります。この2つの相続放棄の手順や必要書類、注意点をご紹介していきます。
4-1.家庭裁判所で行う放棄
相続放棄を行う上での、法律上の相続放棄は、家庭裁判所に放棄の申述書を提出することです。この申述書の提出は、相続が開始したことを知った日から3ヶ月以内にしなくてはなりません。
4-1-1.手順
・戸籍等の添付書類の収集
↓
・相続放棄申述書の作成
↓
・家庭裁判所へ申し立て
↓
・家庭裁判所から一定の照会事項に対して回答をする
↓
・家庭裁判所で相続放棄の申述が受理される
↓
・家庭裁判所から相続放棄の申述を受理した旨の通知書が送られてきたら終了
4-1-2.必要書類
- 相続放棄申述書(800円の収入印紙を貼付します)
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、住民票の除票
- 相続人の戸籍謄本
- 郵便切手(枚数は申述をする裁判所によって異なります)
4-1-3.注意点
相続放棄の期限として定められている「3ヶ月」は長いように思えてあっという間です。
普段は裁判所の手続きを認識することはないと思いますが、「なんとかなるだろう」「まだ間に合う」等と考えている方は多いです。
家庭裁判所に申述をする前に、相続財産の洗い出しをしたり、相続人の確定をしたり、必要な書類を収集することも3ヶ月の期間内に含まれるのです。
相続放棄は「すぐに手続きをする」という意識がないと期間を過ぎてしまう事が多いので注意して下さい。
4-2.遺産分割協議で行う放棄
家庭裁判所で行う相続放棄を法律上の相続放棄とするならば、遺産分割での相続放棄は、事実上の相続放棄というものにあたります。
家庭裁判所に申述をするのではなく、親族間の任意で行われる相続放棄なので、効力としては家庭裁判所に申述をした相続放棄と比べると弱いものになります。
4-2-1.手順
遺産分割協議は相続人全員でしなければならず、1人でも欠けた協議は無効となります。
協議によって決められた分割内容に相続人全員の合意が得られれば、法定相続分通りでなくても遺産分割協議は成立します。この時に、放棄をしたい人がいる場合「自身の相続分は放棄をする」といった内容が記されている遺産分割協議書に署名・捺印をします。
4-2-2.必要書類
- 被相続人の出生(12歳頃)から死亡までの除籍謄本、改製原戸籍
- 法定相続人が確定するまでの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明
4-3-3.注意点
上記の説明でもあったように、遺産分割協議での相続放棄は、親族間の任意のもとで行われたというだけの効力としては弱いものです。
遺産分割協議書に「何も受け取らない」と書いたとしても、有効なのは親族だけです。仮に、被相続人に借金があったとして、お金を貸していた外部の人には、遺産分割協議書で相続放棄なる文章(借金があったとしても払わない等)を書いていたとしても、外部の人には借金の返済請求をできる権利があります。
被相続人に借金の可能性があるかもしれない、絶対に借金を背負いたくない、とお考えの方は、遺産分割協議ではなく、家庭裁判所を通しての相続放棄をして下さい。家庭裁判所で相続放棄のお墨付きをもらえば、借金があったとしても相続人でなかったことになる為、安心です。
まとめ
生前に相続放棄はできるのか、させられるのか、どのような対策があるのか、相続が起きてから相続放棄はどのようにすればいいのか等・・・相続放棄に関する疑問についてをご紹介いたしました。
原則として、相続放棄は生前にはできません。したがって、財産を遺す人が生前にできることとすれば、相続放棄をさせようとするのではなく、遺言書の作成等で、指定した人に財産を遺すことになります。その際には遺留分の事を忘れずに気をつけて下さい。
そして、財産を遺された側の人たちは、財産を取得したい、したくない、財産は欲しいが借金は背負いたくない、財産も借金も全て放棄したい等の意思により、放棄の仕方も変ってきます。ご自身がどうしたいか、また、どうするのが良いのか、事前に考えておきましょう。そして判断しかねるようでしたら、早めに専門家へご相談されることをお勧めします。
著者:相続ハウス 栗田 千晶(相続診断士)