養子も実子も、相続人としては同じ立場になります。
お互いの権利を主張しあうことで、争いに発展してしまうことも考えられます。
また、養子縁組により相続人が増えたことによって、他の相続人の取り分が減ります。
本来、もらえる分であった取り分が減ったことにより元々の相続人からの不満が出る可能性があります。
相続人が複数いる場合は、慎重に養子縁組を行うことをお勧めします。
そして、養子縁組を行い、相続発生後に少しでも揉めることが危惧されるのであれば、事前に遺言書等を遺しておいた方が、残された方々は揉めずに済むかもしれません。
4-2-2.孫養子は2割加算
被相続人の孫を養子にした場合には、実子としての扱いにはなりますが、相続税の計算時には孫は税金が2割加算になりますので、注意が必要です。
被相続人の一親等の血族及び、配偶者以外の者が、相続または遺贈によって財産を取得した場合、その人の相続税が2割加算になります。
民法上、養子は実子と同じく一親等として扱われますので通常は2割加算の対象とはなりませんが、例外として「孫養子」は2割加算の対象となるのです。
親族間で養子縁組を行う場合、孫を養子にする方もいらっしゃると思います。
この点を念頭に置いた上で、養子縁組を行ってください。
※子(養子とした孫の親)が既に他界している場合には、2割加算の対象にはなりません。
5.養子縁組をする上での注意点
5-1.証人が必要な場合もある
成人を養子にするには、婚姻届と同じような書類に記載するため、2名の証人が必要になります。
5-2.養子縁組を行う際の趣旨
孫以外の未成年を養子にするには家庭裁判所に許可をもらう必要があります。
ですが、その趣旨を「相続対策のため」としても、認められませんので注意が必要です。
5-3.養子縁組するのであれば、他の相続人の了承を得ること
普通養子縁組は、養親になる方と養子になる方、当人同士の同意があれば基本的には成立します。
したがって、養親に実子がいた場合でも、実子の知らないところで養子縁組を行うことも可能になるのです。
いざ相続が発生し、いきなり養子の存在が発覚して、さらに実子と養子の相続財産の取り分が一緒ということが分かったら、実子の方は少なからず困惑するでしょう。
そのような相続発生後のトラブルを未然に防ぐためにも、養親になろうとお考えの方は、ご自身の相続発生時の利害関係者には養子縁組を行う旨をきちんと知らせ、できれば了承を得た上で行った方が、後々の紛争回避になります。
5-4.養親に対する扶養義務
普通養子は、実親と養親の両親からの相続財産を受け取る権利がある反面、実親と養親どちらの親に対しても扶養義務が生じます。
財産をもらう時のことだけを考えるのではなく、親が働けなくなり収入が無くなった場合や、介護が必要になった場合には、面倒を見る義務が生じます。
財産を受け取る権利がある代わりに、扶養義務も果たさなければならないということをお含み置きください。
5-5.縁組の解消は簡単にはできない
養子縁組を行った後に、養親と養子の関係が悪くなり、養子縁組を解消したいということになった場合、原則としてお互いの合意がないと解消はできません。
特に、実の親子関係を消滅させる特別養子縁組の解消はさらに難しく、家庭裁判所の審判が必要になります。
一方が解消を求めたとしても、合意されずにトラブルになった…という事例もありますので、縁組を行う際には、リスク等を踏まえた上で検討をしてから行ってください。
6.まとめ
今回は、相続と養子についての関係、養子縁組の解説、相続対策で養子縁組を行うことのメリットとデメリット、養子縁組を行う際の注意点について解説させていただきました。
また、後半部分では、養子縁組を行った場合にどのようなリスクがあるのかに焦点を当ててご説明させていただいています。
養子と相続は、冒頭でも述べたように複雑な関係をはらんでいる制度です。
単純に相続税の節税をしたいという目的だけで安易に養子縁組を行うのではなく、民法と相続税法に精通している専門家に相談し、様々なシチュエーションを考えた上で、ご検討いただけますと幸いです。
著者:相続ハウス 栗田 千晶(相続診断士)