相続における債務控除には、対象となるものと、ならないものがあることをご存じでしょうか?
相続税を算出する際、課税対象となる財産からマイナスの財産を差し引くことができ、これを債務控除といいます。
債務控除を行い、課税対象となる財産を減らすことで、相続税の負担を軽減することができます。
ただし、マイナスの財産の中には債務控除の対象となるものとならないものとがあるため、注意が必要です。
そこで今回は債務控除の具体的な内容や手続き方法、注意したい点などについて詳しく説明していきます。
1. 相続における債務控除とは
相続税は、故人が残した財産を受け取った人が払う国税です。
課税対象額は相続財産そのままでなく、控除できる金額を差し引いた後、その金額に応じて決められた税率をかけて相続税額を算出します。
控除できる金額が多くなるほど課税対象額は小さくなるので、税率が低くなったり、相続税がかからなくなったりすることがあります。
相続税の算出過程で差し引くことができるのは、相続人の人数に応じた基礎控除、死亡退職金や死亡保険金の非課税金額、墓地や墓石などの日々の礼拝のための仏具の金額、故人の遺志で寄付した公益事業への寄付金、そして故人のマイナスの財産を相続財産の総額から差し引くことができる「債務控除」などがあります。
しかし、控除できる金額と控除できない金額が細かく決められているので注意が必要です。
2.債務控除の対象になるもの
債務控除の対象となるものには、故人が亡くなった時点で金額が確定していることが必要です。
故人が支払っていた住宅ローンや自動車ローンの残額、クレジットカードや電気料金の未払い金、未払いの所得税や固定資産税の金額などが対象になります。
また、故人が他人の借金の連帯保証人になっていた場合などは、原則として借金をした本人が返せない金額のみが対象になります。
債務控除の対象である住宅ローンは、故人が団体信用生命保険付きの住宅ローンに加入していた場合は、支払者である故人が亡くなったのと同時に残額の支払い義務がなくなります。
これらの以外にも、故人が病院で亡くなった場合は入院費用の未払い分、介護施設などで亡くなった場合は施設利用料の未払い分、故人が事業を営んでいた場合は買掛金の金額、家賃収入がある場合は賃貸人に返す可能性がある敷金の金額など控除できるものはたくさんあります。
なお、故人の債務ではありませんが、故人の葬儀にかかった費用も対象になります。所得税や葬儀費用などは故人が亡くなってからの計算になりますが、債務控除の対象になります。
【対象となる債務】
・銀行からの借入金
・未払いの医療費
・未払いの税金(固定資産税、住民税、所得税など)
・連帯債務における、被相続人の負担する金額
・保証債務(主な債務者が債務を支払うことができず、後に返還される見込みがない場合)
3.債務控除の対象にならないもの
債務控除の対象になりそうなものでも対象にならないものがあるので、注意しましょう。
故人が入ることになる墓地の使用料や墓石の購入費用も対象外です。
墓地や墓石、仏壇や神棚などは相続財産に含まれないので相続税の節税にもなるからと、故人が生前に自分で準備することもあるでしょう。
しかし、ローンで購入して残額があった場合は、債務控除の対象にならないので注意しましょう。
【対象とならない債務】
・保証債務
・加算税、延滞税
・相続を開始した時点で、消滅時効の完成している債務
・墓碑や仏壇・仏具といった非課税財産を購入するための債務
なお、葬儀費用については初七日や四十九日などの費用、香典返しの費用は控除の対象になりません。
ただし、参列者の負担を考慮して葬儀の当日に併せて初七日などの法要が執り行われた場合は、控除の対象になるとされています。
また、相続財産を調べるための費用や遺産分割の裁判費用などは、相続する人達で負担するものとされているので債務控除の対象になりません。
4.債務控除の方法や注意点
「債務控除」は、相続税の申告書の第13表である「債務及び葬式費用の明細書」に具体的な金額を記入して申告します。
何の費用なのか、相続人の中で誰が負担したのか、細かく記載することになっています。
正確にもれなく記載するために、忙しくても債務控除の対象になりそうな領収書はすべて保管しておきましょう。
病院や施設の領収書、葬儀社の領収書などの他に、戒名料などの領収書がない費用でもメモしておいて記載すると債務控除として認められるので、忘れないようにしましょう。
5.まとめ
債務控除で対象となるものと、そうでないものとの判別は難しく、相続税に限らず税法は時代の変化に合わせて頻繁に法改正されており、すべてを正確に理解して正しく申告するのは一般の方にとっては困難なことかもしれません。
さらに、相続は故人が亡くなったと同時に開始し、原則10ヶ月という短い期間で相続税の申告と納付をしなければならず、全部の相続財産の把握に始まり、遺産分割協議などもある場合には、時間的にも、手続きにも大変な手間がかかってしまいます。
税務署でも申告書の書き方などは親切に指導してもらえますが、困難だと感じられる場合は相続に詳しい専門家に相談されたり、依頼しても良いでしょう。
債務控除の内容などについて詳しく説明してもらえるだけでなく、早めに依頼をすることができれば、相続税の節税方法などについてもアドバイスしてもらえる可能性が高くなるのでおすすめです。