相続が発生した際、選べる選択肢のうちの1つの限定承認には、どのようなメリットがあるのか、気になっている方も多いのではないでしょうか?
相続財産の中にはプラスの価値がある財産だけではなく、負債や未払い金といったマイナスの財産も含まれます。
そのため、相続では総合的な財産の価値がマイナスになってしまう可能性も存在しているのです。
こうしたリスクに対応するために、マイナスの財産の価値よりもプラスの財産の価値が上回った時にだけ、相続を行うという選択肢が存在しています。これが「限定承認」と呼ばれているのです。
この限定承認にはどのようなメリットがあるのかを理解することで、相続における有効な選択肢が増える可能性もあります。
ここではそういった限定承認に関するメリットについて説明しつつ、検討する際には覚えておいてほしいデメリットも紹介します。
この制度の内容や注意点を理解して、自身にとって最適な相続につなげてください。
1.財産の価値がプラスになった場合のみ相続を受けられる「限定承認」
限定承認というのは、プラスの財産とマイナスの財産の両方がある場合に「総合的な財産の価値がマイナスになってしまうかもしれない」というリスクに備えることができる制度です。
まずは、この制度の大まかな内容をお伝えします。
1-1.限定承認とは
限定承認というのは、被相続人がプラスの財産とマイナスの財産の両方を持っていた場合に、相続人がプラスの財産の範囲の中でマイナスの財産を引き継ぐという制度です。
つまり、被相続人に高い金額のマイナスの財産があったとしても、プラスの財産を上回る分までは継承しなくて良いということです。
1-2.限定承認と単純承認・相続放棄との違い
限定承認に対して、プラスの財産も-の財産もすべて受け継ぐことを「単純承認」と呼びます。
これは基本的な相続のかたちと呼べるものであり、手続きをしないと自動的に単純承認での相続を行うことになります。
マイナスの財産を負うことを避ける手段としては、他にも「相続放棄」という制度があります。
ただし、相続放棄は財産をすべて放棄する制度のため、プラスの財産を受け取ることもできなくなるという点が、限定承認とは異なります。
2.限定承認のメリット
限定承認を利用すると、相続の負担を回避することができます。
ここではどのようなメリットがあるのか、どのようなケースで限定承認を利用すべきかといった点についてお伝えします。
2-1.負わなければいけない負担がプラスの財産の範囲内
限定承認というのはプラスの財産の金額の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐことができるという制度です。
例えば、被相続人には500万円の預貯金と1,000万円の価値を持つ不動産といったプラスの財産の他に、2,000万円の借金があったとします。
この場合、単純承認で相続を行うと、相続人は500万円の負債を負ってしまいます。
しかし、限定承認の手続きを行えば、相続する財産は1,500万円の正の財産と借金の1,500万円だけとなり、500万円の借金は払わなくても良いことになります。
2-2.少人数で相続を終わらすことができる
相続放棄は相続人が1人で申し立てることができますが、その場合は次の順位の相続人に権利が移ります。
もしも次の相続人も権利を放棄したい場合は、さらに相続放棄の手続きをしなければいけません。
しかし、限定承認は相続人全員で申立を行うので、このような長いステップを必要としません。
少人数で相続を終わらせたい場合にも、限定承認は有効なのです。
3. 限定承認を利用すべきケース
実際に相続が発生した場合には、プラスの財産とマイナスの財産をあわせた総合的な価値がわからない場合があります。
そんな場合は「もしかしたら負債を負ってしまうかもしれない」と不安になってしまうかもしれません。
しかし限定承認を行うと、もしもマイナスの財産の価値の方が大きくても、負担を回避することができます。
また、もしも被相続人の財産に相続人の住む住居があった場合には、相続放棄でプラスの財産とマイナスの財産の相続を一緒に放棄してしまうと、住む家まで失ってしまう可能性があります。
このように、特定の財産だけは残したい場合にも、限定承認は有効なのです。
4.限定承認を行う際の注意点
メリットがある一方で、限定承認を受ける場合には注意しなければいけないポイントも存在しています。
限定承認を検討している人は、事前にこうした注意点も把握しておいてください。
3-1.手続きは相続人全員で行うことが必須
限定承認の手続きは相続人が全員で行わなければいけません。
誰か1人でも反対すれば限定承認はできないため、実際には限定承認が行われるのは稀なケースとなっています。
3-2.譲渡所得税が課せられる
限定承認で受け取った財産は、相続が開始された日に被相続人が相続人に財産を時価で譲渡したものとみなされます。
そのため、譲渡所得税を支払わなければいけません。
譲渡所得税の税率は譲渡された年の1月1日が基準となっており、基準の日から5年以上が経過している財産は長期譲渡所得として15%、5年以下の場合は短期譲渡所得として30%の税金が課せられます。
4.まとめ
限定承認は相続される財産が不明瞭でもリスクを回避できる、有効な手段です。
ですが、手続きには細かい条件や納税の負担がかかることから、利用されるケースは少ないというのが実情です。
しかし、場合によっては負担を回避した上でメリットが得られる制度なので、状況に応じて利用を検討する意義は大きいといえるでしょう。
相続に直面する人は、選択肢の1つとして限定承認についても把握をしてください。