父が亡くなっても、被保険者が子であるため、税金は発生しません。
子(孫から見た父)が亡くなった時には、死亡保険金は孫の所得税課税対象になります。所得税は、受取額から今まで支払った保険料等を控除した部分のみが課税対象となりますので、通常、保険料相当額を父が相続財産として現金で持ち続けているよりも税金を抑えることができます。
また、この方法には、とばし贈与によるメリットもあります。
通常、相続人に生前贈与が行われていた場合、相続発生から3年以内に贈与されたものは相続財産に含めて計算をしなければならないという決まりがあります。
つまり、[2-1.]や[2-2.]の方法で生前贈与を受けていた場合、父の相続発生から3年前までに贈与を受けた分は、相続財産として加算しなければならないのです。
しかし、とばし贈与で父から孫に贈与をしていた場合は、孫が相続人でない限り、父が孫に贈与した額が相続財産に加算されることはありません。
ただし、この方法を用いるにあたり、以下の点にご注意下さい。
- 一時払いで一度に多額の保険料を贈与・払い込みしてしまうと、贈与税の課税対象となります。
- 受贈者が保険契約をしているという認識が必要です。
- 贈与者である父が亡くなっても、被保険者が子であるため、保険金は下りません。
- 父が亡くなっても保険料の払い込みは継続します。父の死亡後は、孫が自分の資金で保険料の払込を続けるか、保険の解約をすることとなります。
- 払込の途中で保険を解約する場合、解約返戻金は支払ってきた保険料を下回ることがあります。途中で解約する見込みのある場合は、解約返戻金が高いタイプの保険に加入しておくと良いでしょう。
- 孫が父(孫から見た祖父)より遺贈を受けたり、子(孫から見た父)の代襲相続人となる場合は、3年以内に贈与を受けた分も相続財産に加算されます。
3.解約返戻金を利用して行う相続税対策
被相続人が契約者となって入っていた保険の払込期間中に相続が発生すると、一般的には評価額を圧縮することができます。
以下の契約形態で低解約型生命保険に加入したケースです。
この場合、父が亡くなると、この保険の相続税法上の評価方法は、相続開始時の解約返戻金相当額となります。
低解約型保険とは、保険料の払込期間中は解約返戻金が通常に比べて低く設定されているタイプの保険です。
なので、払込期間中、すなわち解約返戻金が低い時点で相続が発生すると、今まで払い込んできた保険料と解約返戻金の差額の分だけ相続財産を圧縮することができます。
相続時に解約せずにそのまま名義を変更して保険を継続し、解約返戻金が高くなった時点で解約すれば、相続税は節税しながら払い込んだ保険料を回収することができます。
ただし、この方法を用いるにあたり、以下の点にご注意下さい。
- 払込満了時には解約返戻金がほぼ100%に戻るため、節税効果はほぼなくなります。相続が発生せずに払込満了を迎えた場合は、新たな対策をとる必要があります。
- 払込期間の途中で解約をすると、解約返戻金が低いため資産が大幅に減ってしまいます。
- 低解約返戻金型の保険には定期と終身があり、定期保険に加入すると、解約返戻金のピークを過ぎるとどんどん解約返戻金が減っていきます。満了を迎えるときには保障も解約返戻金もなくなってしまうため、解約返戻金のピークの時期を忘れないようにしましょう。
4.生命保険を利用して得られる他の効果
生命保険を利用して行う相続税対策を説明しましたが、生命保険には相続税を抑える他にも効果があります。
・納税資金対策効果
相続発生時に被相続人の口座が凍結されてしまっても、保険金であれば受取人がすぐに現金を受け取れて、納税費用に充てることができます。
同様に、葬儀費用などの死後事務費用等にあてることもできます。
・分割対策効果
生命保険は民法上の相続財産ではなく、受取人固有の財産ですので、遺産分割の対象とはなりません。そのため、揉めない対策の手段としての効果もあります。また、相続放棄をした場合でも保険金は受け取ることができます。(ただし、相続放棄した場合は相続税法上の非課税枠は適用されません。)
さらに、不動産等を取得した相続人のために、代償分割のための費用として用意しておくこともできます。
まとめ
ここまで、相続税対策となりうる種々の保険のご紹介をしてきました。
非課税枠を利用した方法、生前贈与の手段として利用する方法、解約返戻金を利用した方法と様々ありますが、いずれも一番重要なのは契約者・被保険者・受取人の関係です。ここを理解しないまま間違った契約形態で保険に加入してしまうと、全く相続税対策にならないという事態も起こり得ますので、保険の内容についてよく注意し、検討するようにしましょう。
著者:相続ハウス 山下雅代(相続診断士)
監修:税理士法人エスネットワークス