資産よりも負債が多い状態で相続が発生した場合は、よく「相続放棄をすればいい」といった話を耳にします。
もし全員が相続放棄をした場合、譲りうけるはずだった資産や負債はどうなってしまうのか、気になったことはありませんか?
たしかに相続放棄をすれば、借金は背負わずに済みますが、遺産を全く無責任に放置するわけにはいきません。
今回は相続人全員が相続放棄をした場合の資産や負債の行方についてご説明いたします。
1.遺産の行方
1-1.遺産の所有者がいない場合の問題点
「全員が相続放棄をした」と聞くと、その遺産は所有者がいない「無主物」の状態だと思ってしまいがちです。
ところが無主物の状態では、プラスの遺産の取り合いになったり、相続放棄をしたにも関わらず遺産を引き継げてしまうなどの問題が発生してしまいます。
1-2.相続財産法人の成立
上記のような問題があることから、相続では絶対に無主物状態にならないよう「民法951条:相続財産法人の成立」によって「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。」と定められています。
第951条
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
つまり、あなたの体の所有者があなた自身であるように、財産そのものを人として捉え、その財産の所有権を財産自身に持たせてしまうということです。
1-3.相続財産管理人とは
たとえ財産を人として捉えても、財産に手足が生えているわけではありませんので、財産を管理する人が必要になります。
その人のことを「相続財産管理人」と呼び、家庭裁判所によって選任されます。
家庭裁判所へ相続財産管理人の選任を依頼するのは、一般的に被相続人の債権者(被相続人へお金を貸した人)や、最後に相続放棄をした人などです。
1-4.資産>負債なら遺産は国のもの
いざ清算してみたら資産の方が多かった場合、その遺産は「国庫」として国のものになります。
では、負債の方が多かった場合はどうなるのでしょうか?
詳しくご説明いたします。
2.借金の行方
2-1.債権者が相続財産管理人の選任を依頼する理由
相続財産管理人は、被相続人の資産や負債の状況を調べ、資産があればそれを現金化するなどして、債権者全員に平等に返済をしてくれます。
そのため、被相続人に預貯金や不動産といった資産が残っていれば、債権者は少しでもお金を返してもらうため、数十万円~百万円程度の「予納金」と呼ばれるお金を納め、家庭裁判所へ相続財産管理人の選任を申し立てます。
たとえ被相続人に資産がある見込みでも、その額があまりにも少ない場合には、債権者は申し立てないのが一般的です。
2-2.資産があった場合の分配
たとえば、被相続人がA銀行・B銀行・C銀行それぞれに3,000万円(合計9,000万円)の借金をしており、遺産として現金が600万円のみあった場合、相続財産管理人はA銀行・B銀行・C銀行それぞれに200万円ずつ返済します。
被相続人の遺産はこの600万円のみなのでA銀行・B銀行・C銀行はそれ以上の返済を求めることができず、結果として2,800万円の損をすることになります。
2-3.相続財産管理人の申立の手続きと費用について
相続財産管理人の申立は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所で行う必要があります。
また、申立書以外に被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本が必要になります。
その他、被相続人の家族で既に死亡している人がいる場合などには、被相続人の子や兄弟姉妹の戸籍謄本なども必要になることがあります。
尚、費用については、収入印紙800円分、連絡用の郵便切手、官報広告料3,775円および上記でお伝えした「予納金」が必要になります。
▼詳しく知りたい方はこちら
【相続人がいない時はどうする?相続財産管理人を立てて解決】
3.全員が相続を放棄したときの注意点
3-1.相続放棄をしても管理責任がある
相続放棄をすると「相続財産を取得する権利を手放したから、その財産の管理もしなくていい」と考えてしまう人が多くいます。
ところが、「財産を取得しないこと」と「財産を管理しないことは別物」ですので、たとえ相続放棄により財産を取得しない場合であっても、その財産の管理責任から解放されるわけではありません。
3-2.管理責任の例
管理責任について、「老朽化した建物」が遺産だったケースで考えてみましょう。
たとえば、老朽化した建物が倒壊しそうな場合、その建物の強度を補い倒壊を防がなければなりません。
また、雑草が蔓延っているのであれば、隣地の人に迷惑がかからないよう、その雑草を除去しなければなりません。
このような対応のことを管理責任といいます。
3-3.管理責任はいつまで続くのか
上記のような管理責任は、次の管理者が決まるまで続きます。
つまり、相続放棄をし、次順位の相続人がいない場合には、永遠に管理責任とそのランニングコストが付きまとうことになります。
このような場合にも、「1-3.相続財産管理人とは」で説明した相続財産管理人選任の申し立てをしなければなりません。
選任後から清算等の処理がすべて終わるまで、およそ1年といわれています。
4.まとめ
全員が相続放棄をし、あなたが最終順位の相続人だった場合、債権者から相続財産管理人選任の申し立てが行われないようなら、あなたが相続財産の管理をしなければなりません。
その義務から逃れるためには、あなたが家庭裁判所で相続財産管理人選任の申し立てを行うことになります。
このように、相続放棄したからといって安心できないケースもあるので注意しましょう。