引退にむけてスムーズに後継者に引き継ぎをしたい、相続対策を行っていきたいけれど、どうやったらいいのか悩んでいる経営者の方も多いのではないでしょうか?
経営者にとって、相続や事業継承は避けて通れない重要な問題です。
まだまだ先のことと考えている方も多いかもしれませんが、円滑な事業継承を行うためには、早めの準備が何よりも大切です。
そこで今回は事業承継にまつわる様々な資金準備、知っておきたい相続対策についてご説明いたします。
1. 難しい推定相続人への事業承継
事業継承には「後継者にさせるために有能な社員を育成する」「他の会社から後継者をスカウトする」などの例もありますが、中小企業庁の調査によると、過半数の事業承継は親族間で行われています。
準備のないまま経営者が亡くなると、相続人同士で主導権争いが起こる恐れもあります。
特に相続はいつ発生するか分かりません。
事業承継の対策は、経営者は常に考えおくべきことといっても過言ではありません。
推定相続人である親族へ事業承継する際の課題は「自社株の取得」と「相続税」です。
後継者が円滑に経営権を引き継ぐためには、社長になるだけでは足りず、一定の数を超える自社株の所持が必要となります。
自社株は他の自社株の取得者から買い取りを行う方法や、先代の社長から相続するなどして取得しますが、いずれにせよお金がかかります。
さらに、業績の良い会社や土地など資産を保有している会社は、株の評価額が高くなるため相続税、ならびに自社株取得費用の負担が大きくなります。
そのため業績がよかったり、資産の含み益が高い会社ほど、早いうちから自社株を贈与したり、生命保険などで買い取り資金を用意することが必要になります。
2.事業承継は早めの準備が何より大切
2-1. 生前贈与を活用する
事業承継の準備は時間を味方につけることが大事です。
たとえば暦年贈与の基礎控除は110万円です。
110万円を10年続ければ1100万円の資金を贈与できます。
受贈額でコツコツ自社株を取得すれば、それだけで大きな相続対策になります。
▼暦年課税制度について詳しく知りたい方はこちら
【贈与前に押さえておきたい暦年課税制度のメリットとデメリット】
また自社株の評価が低く、資産額も小さい場合は「相続時精算課税」の選択も有効です。
この制度を利用すれば、父母または祖父母からの贈与が2,500万円まで非課税になります。
一度この制度を選択すると撤回ができないため、慎重に見極める必要がありますが、2,500万円の範囲内であれば、財産の種類や贈与回数に制限はないなど、自由度が高いです。
▼相続時精算課税制度について詳しく知りたい方はこちら
【相続税対策に意外と使える!相続時精算課税制度の活用法】
2-2.保険を活用する
想像以上に相続が早く訪れた時のためにも、企業保険を活用しましょう。
生命保険であれば基本的に死亡時期に関わらず、現金の準備ができます。
現金は納税・自社株取得資金の他、他の相続人への代償分割資金など汎用性が高いです。
また受取人を承継人ではなく会社にして、運転資金を用意するなど、事例によって加入方法を選べるのもいいですね。
3.事業承継円滑化法を活用する
中小企業の事業承継は現在の日本における課題のひとつです。
事業承継円滑化法には、事業承継の問題を取り除くための決まりや特例が制定されています。
3-1. 遺留分に関する民法の特例
この特例のおかげで、自社株を生前から少しずつ贈与しておくことが有効な相続対策となりました。
本来生前贈与は民法上遺留分の対象ではありません。
しかし、自社株は特別受益とみなされるケースも多くありました。
遺留分とは配偶者や子どもに対する財産分与の最低保障であり、「遺留分権利者」には一定の相続財産を取得できるという権利があります。
「自社株の生前贈与」により遺留分が侵害されたとみなされると、侵害部分は他の相続人の相続財産とされます。
このように、株式の生前贈与を行っても遺留分によって他の相続人に財産が差し戻されてしまう恐れがあり安心して贈与が行えないという現実がありました。
そこで経済産業省の確認を受けるなど一定の要件を満たせば贈与された自社株式等は遺留分算定の基礎財産から除外される『除外合意』が適用されことになったのです。
また、贈与株式の評価額をあらかじめ固定し、その後の評価額上昇に備える『固定合意』といった特例も存在します。
3-2.相続税・贈与税の納税猶予制度
法律では、贈与税や相続税の納税が猶予される制度もあります。
ただし、中小企業に限り適応され、後継者は現経営者の親族であることや、この制度への申請期限後、5年間は従業員の8割以上の雇用を保持することなどの要件が課されます。
3-3.小規模宅地等の特例
事業用の土地がある場合の相続税も問題になります。
経営者名義の土地を相続すると、相続税額によっては土地を処分しなくては相続税が支払えない可能性もあります。
そのような事態を避けるために、「小規模宅地の特例」といって、土地の評価額を抑える特例が従来からありました。
平成11年から数回の拡充を経て、平成27年には面積上限400平方メートル、評価の減額割合80%にまで特例が拡大されました。
納税や資金準備という意味で課題が多い事業承継ですが、活用できる特例は最大限利用したいですね。
▼小規模宅地等の特例について詳しく知りたい方はこちら
【知ってお得に納税!相続評価が減額になる小規模宅地等の特例】
4.まとめ
会社の経営権を相続するには、乗り越えるべき壁が多く存在することが分かります。
卒業や定年といった年齢による線引きがないため、経営者自ら対策を始めにくいという現状もあるでしょう。