そして、いざその不動産を処分しようとした時には、共有名義人の数が大変な数になっていたり、また、その手続きを進める為に名義人全員の同意を得なくてはなりませんので、「4-2.名義人全員の承諾がないと処分できない」の様にトラブルになったり・・・という様な事態にもなりかねません。
実際に、顔も合わせたことの無い様な遠縁の親戚から、不動産を処分する為の遺産分割協議書に署名・捺印をして欲しいとの通達がいきなり届いたなんていう事例も少なくありません。
5.どんな対策があるのか?
対策といっても、そもそも「相続で共有名義にしない為の対策」と「共有名義を解消する対策」等が考えられますが、前者の事前に出来る主な対策としては、
① 遺言書を作成し、不動産を共有名義にならない様に相続させる。
② 代償分を用意しておく。
といった対策が挙げられます。
▼代償分割について、詳しく知りたい方はこちら
【不動産など分割できない相続財産は代償分割でスッキリ解決】
後者の共有名義を解決する対策については、下記の様な対策が挙げられるのですが、こちらは事前にできる対策にもなりますので、ご参照ください。
5-1.1人が現金で持ち分を買い取る
共有名義の状態を解消するには、それぞれが共有で持っている持分を1人に寄せて、単独所有とする方法があります。
まだ遺産分割協議が終わっていない場合でしたら、暫定的な持分のある相続人同士が、その持分を他の相続財産と交換して、1人の相続人に持分を寄せることによって共有状態を解消することもあります。
(※ただし、税金がかかる場合もあります)
この場合には、他の相続財産の中からその持分割合に充当する財産を支払うか、もしくは自身の財産から支払うことになります。
遺産分割協議の中で、上記の様に財産の移転を行うことを「代償分割」といいます。
一旦は遺産分割協議を終えて、共有名義に相続登記をしてしまってからでも、持分を売買という形で買い取って単独所有とすることは可能です。
(※同上)
5-2.土地を分割(分筆)して単独名義にする
「4-1.トラブルの原因になりやすい」でも解説した様に、共有名義状態ではなく、持分に応じて土地に境界線を引き、分筆するという方法もあります。
分筆することにより、区分所有となりますので、独立した単独所有の土地ができます。
これにより、共有であるという概念がなくなりますので、所有者1人の意思によって、その不動産を好きに売却をしたり、建物を建てたり等が出来るようになります。
分筆をする流れとしては、まず対象となる土地の境界線を引くために、土地の測量と境界確定を行います。
この作業は、土地家屋調査士に依頼をします。
その次に、境界線を引いた土地の分筆登記を行います。
分筆登記を行う段階では、まだ区分ごとの名義人が確定していませんので、登記は名義人全員で行います。
分筆登記が完了後、その土地の1筆ごとが共有名義人全員の名義になっていますので、ここから所有権移転登記を行います。
分筆登記と所有権移転登記が完了して初めて、個人の単独名義となる訳です。
ただし、分筆した土地のどの部分を誰が取得するのかを決めるにあたっても、それぞれの評価額を同じにすることは難しいため、いざ分筆をしようとなっても実際はそこから作業が難航しているケースもあります。
5-3.売却して売却額を共有者で分ける
共有名義人同士で意見がまとまっている場合には、持分割合に応じた売却額を分けるという方法もあります。
共有名義の状態で売却手続きを進めていくと、単独所有で売却手続きを行う場合に比べて手間や時間がかかりますので、場合によっては、あえて1人の名義に相続登記をした上で売却手続きを進め、売却額を後から他の共有名義人に返すという方法もあります。
これを、「換価分割」といいます。
いずれにしても、こちらの方法は共有名義人間で話し合いができ、なおかつ意見がまとまっている状態であることが前提となります。
また、換価分割を選択した場合には、その旨を遺産分割協議書に記載しておく等、きちんと手続きをしておかないと、後から贈与としてみなされてしまい、支払わなくて良かった贈与税が発生してしまうこともありますので、ご注意下さい。
6.共有名義の相続登記で遺産分割協議書がいらない場合
自身の持分のみを売却したいということであれば、他の共有名義人の同意は不要です。
従って、遺産分割協議書も必要ありません。
ですが、あくまで売却できるのは持分という「権利」だけであって、その持分に該当するどこからどこまでの土地を売却する、といったことはできないので、自由に使うことができない土地の持分のみを買い取るという買い手は、見つかりにくいのが現実です。
ただし、そういった土地を専門で買い取るといった業者も中には存在しますので、まずは業者に相談してみるというのも一つの手かもしれません。
7.まとめ
今回は、相続をきっかけとして財産が共有名義になった場合に、どういったことが考えられるのか?というメリットやデメリット、解決策について解説させていただきました。
共有名義になることによって、恩恵を受けられることもあれば、反対にトラブルの種になってしまうこともあります。
一般的に、共有名義は危険だ!トラブルに巻き込まれる!といったイメージを持たれている方が多くいらっしゃるかもしれませんが、共有名義人間の関係によって、共有名義の状態であることがプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともあるので、絶対に反対ですという訳ではありません。
ですが、リスクを考えずに安易な考えで一度共有名義にしてしまうと、解消をする為には相当な時間や費用、労力を費やすだけでなく、共有名義人間の人間関係を壊すきっかけにもなりかねませんので、よくお考えになって実行されることをお勧めします。
取り急ぎ共有名義にした、また、共有名義にするか迷われている方等いらっしゃいましたら、是非一度専門家にご相談してみてください。
著者:相続ハウス 栗田千晶(相続診断士)
監修:税理士法人エスネットワークス
れみらい法務事務所 大貫 智江(司法書士)