借金などのマイナスの財産が多いがために、相続放棄をしようと思っている方も多いのではないでしょうか?
相続税の基礎控除額は法定相続人の数で計算できますが、相続放棄をしたら計算はどうなるのかわからない、という方もいらっしゃるかもしれませんね。
また、相続放棄をしても相続税を支払わなくてはいけない場合もあるので注意する必要があります。
そこで今回は「相続税に関する相続放棄」に焦点を当ててご説明します。
相続放棄の手続き方法は知っていても税金への影響は知らない方も多いかと思いますので、ぜひ参考にしてみてください。
1.相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人(亡くなった人)の財産を借金を含めて全て相続しないとすることです。
▼相続放棄の期限や手続き方法などを知りたい方はこちらをご覧下さい。
【これを読めば相続放棄は完璧!相続放棄の総まとめ】
実際に相続を放棄するためには、下記の2つの方法があります。
1-1.遺産分割協議で相続分をゼロにする
遺産分割協議書にてその人の相続分を書かなければ、その人は遺産を相続しないことになります。
しかし、これはあくまでも「相続しない」だけであって相続権自体はそのまま残ります。
もし被相続人に借金があった場合、相続した財産がなくても返済義務はありますので注意が必要です。
1-2.家庭裁判所で相続放棄をする
家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出して相続放棄手続きを行います。
「1-1.遺産分割協議で相続分をゼロにする」も現実的には相続放棄することになりますが、法律上の「相続放棄」はこの家庭裁判所での手続きを指しますので注意しましょう。
家庭裁判所にて相続放棄の申請をすれば相続権自体がなくなるので、借金を背負わなくても大丈夫です。
※本記事ではこちらの法的な「相続放棄」について記載しておりますのでご注意ください。
2.相続放棄による影響
相続放棄をすると法定相続人の数が変わりますが、相続税の計算はどう変わるのでしょうか。
2-1.基礎控除額
相続放棄をしても基礎控除額は変わりません。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算することができます。
相続放棄をすると民法上は初めから相続人でなかったとして扱われますので、法定相続人の数も減らして計算するのでは、と思う方もいるかもしれませんが、それは間違いです。
基礎控除額の計算をする上では、相続放棄がなかったものとして基礎控除額を計算します。
計算例
下の図をご覧下さい。
通常、被相続人の子が相続放棄をすると、子は最初から相続人でなかったとみなされるので、民法上の相続人は妻と弟3人(次男、三男、四男)の計4人になります。
ですが基礎控除額の計算をする上では、その放棄自体がなかったものとして法定相続人の数を数えなくてはいけません。
つまり、この場合の基礎控除額を計算する上での法定相続人の数は、子、妻の2人となります。
これをそのまま計算式に当てはめると、
3,000万円+600万円×2=4,200万円になります。
この場合、基礎控除額を計算する上での法定相続人の数は2人ですが実際に相続する人の数は4人となり、両者の数が異なります。
よくこれを混同して計算してしまっている方が多いので注意しましょう。
2-2.生命保険金の非課税枠
生命保険金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」です。
相続放棄をしても生命保険金の非課税枠は変わりません。
これも基礎控除額と同様に、相続放棄自体がなかったものとして法定相続人の数を数えます。
ただしここで注意しなくてはいけないのが、非課税枠は変わりませんが、相続放棄者が受取人の場合は非課税枠は適用されないということです。
そもそもこの非課税枠が適用されるのは、受取人が法定相続人である場合に限定されます。
相続放棄をするとその人の相続権は失われるため、その人は相続人ではなくなり、非課税枠の適用を受けることはできなくなります。
(非課税枠が使えないだけで、受取人になること自体はできます)
2-3.死亡退職金の非課税枠
死亡退職金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」です。
相続放棄をしても死亡退職金の非課税枠は変わりません。
これも基礎控除額と同様に、相続放棄自体がなかったものとして法定相続人の数を数えます。
3.相続放棄をしても相続税を支払わなければいけない場合
基本的には、全財産を放棄するので相続税を支払うことはありません。
ですが例外もあり、下記の場合は相続放棄をしても相続税を支払わなくてはいけないこともありますので注意しましょう。
3-1.生命保険金を受け取った場合
「2-2.生命保険金の非課税枠」でご説明した通り、相続放棄をしても保険金の受取人になることはできます。
しかし非課税枠の適用ができませんので、受け取った金額が全て課税対象になります。
亡くなった人の遺産総額が基礎控除額を越えた場合は相続税が発生する可能性がありますので、もし基礎控除額を越えそうな場合は注意しましょう。
▼基礎控除額を越えるかどうか心配な方は、こちらをご覧ください。
【基礎控除額を計算して相続税がかかるかチェックしよう!】
3-2.遺言による遺贈を受けた場合
遺贈とは、遺言によって相続人でない第三者に財産を渡すことです。
遺贈は亡くなって初めて効力が生まれますので相続税の課税対象になります。
相続放棄をすると相続人でなくなるのはご説明してきた通りですが、遺言にてその相続放棄者に遺贈すると書いてある場合、相続放棄者はその遺言に記載されている財産を受け取ることができます。