相続について話している中で、「特別受益証明書があると何か便利だ」というようなことを、聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続関係の書類には「絶対必要なもの」と「あると便利なもの」がありますが、特別受益証明書は「あると便利なもの」に入ります。
「絶対必要なもの」は、本やインターネットで取り上げられることも多いと思いますが、「あると便利なもの」、つまり豆知識のようなものはあまり詳しく取り上げられることはないので、名前はなんとなく知っているけど一体何なのかわからない、自分でも作れるの?と疑問に思う方も多いと思います。
後ほど詳しくご説明致しますが、実は特別受益証明書があることによって不動産の相続登記ができるなど、これがあることの影響はかなり大きいのです。
そのため、特別受益証明書がなんなのかよくわからないままにしておくと、いつのまにか手遅れになってしまったということもあるかもしれません。
そこで今回は、後で「こんなことができるなら知っておけばよかった!」と後悔しないように、特別受益証明書の目的・メリット・デメリット・作成方法などを徹底解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
1.特別受益証明書とは
「特別受益証明書」とは、「被相続人の生前に自分は相続分相当の財産贈与を受けていたので、私の相続分はもうありません」というような、相続人の意思表示を書面にしたものです。
「相続分不存在証明書」あるいは「相続分のないことの証明書」などと呼ばれることもあります。
特別受益がそもそも何なのかについては、こちらで詳しく解説していますので見てみてください。
2.メリット
2-1.遺産分割協議書の代わりになる場合がある
通常、被相続人(財産を遺す人)が亡くなり相続が発生した場合は、相続人全員で遺産分割協議をして、遺産分割協議書を作成し、その通りに遺産を分けて相続します。
ですが、他の相続人から特別受益証明書と印鑑証明書をもらえれば、遺産分割協議をしたと大差ないとみなされるので、遺産分割協議書を作成しなくても済むのです。
下の図を見てみましょう。
父が亡くなり、3,000万円の相続財産を相続することになりました。
通常は法定相続分で3等分して相続するか、それと違う分け方をしたければ、相続人である長男・次男・三男の3人で遺産分割協議をして、遺産分割協議書を作成するかのどちらかです。
ですが、次男と三男が既に特別受益証明書を長男に渡しておけば、それは「自分の相続分はもうないです」と証明していることになるので、遺産分割協議をしたのと大差ないということになります。
すると、遺産分割協議をしなくても、長男が全ての相続財産(3,000万円)を相続できるのです。
また、重要なのが、「特別受益証明書は、被相続人が生きている間に作成したものでも法律的に原則有効である」ということです。
実は、遺産分割協議書は、被相続人が生きている間に作成したものは法律的には無効になってしまいます。
そもそも被相続人が生きているうちは、それは「遺産」ではなく、今後も変動する可能性のある「財産」なので、協議することすらできませんよね。
その反面、特別受益証明書は、被相続人が生きている間に作成しても原則有効なので、事前に準備することができ、相続発生後の手続きを円滑に行うのに役立ちます。
(但、証明書の提出先によっては、生前の特別受益証明書では受け付けてくれない所もあるので専門家、提出先に確認してみてください)
2-2.相続登記に使える
相続における不動産登記においては、実務上、この「特別受益証明書」を添付した相続による所有権移転登記申請が認められています。
下の図を見てみましょう。
父が亡くなり、父名義の家を相続することになりました。
通常は相続人である長男・次男・三男で遺産分割協議をして、遺産分割協議書を作成し、登記申請の際に添付するのですが、この特別受益証明書があれば、遺産分割協議書がなくても登記ができます。
長男が家を相続する場合、次男と三男に特別受益証明書を作成してもらい、これと次男・三男の印鑑証明書を相続登記申請のときに添付すればOKです。
3.注意点
3-1.相続放棄とは違う
冒頭でもお伝えした通り、特別受益証明書とは「相続分がないことを表す証明」です。
ただし、勘違いされやすいのですが、これは「相続放棄」ではありません。
受け取る財産はゼロでも相続権まで失った訳ではないので、もし被相続人に借金があったと後でわかった場合は、借金を支払わなくてはいけなくなってしまいます。
借金を含め完全に相続放棄したい場合は、家庭裁判所で相続放棄の手続きをする必要があります。
実際に、相続放棄との違いである「マイナス財産は引き継ぐ」ということをきちんと理解しないまま、他の相続人に促され安易に作成してしまうケースが多く、後々トラブルになるケースも多いのです。
一旦、証明書を作成してしまえば、法定単純承認自由(これがあるともう家庭裁判所で相続放棄が認められません)である財産の処分に該当するとも考えられ、後になってマイナス財産が多いので相続放棄しようと思っても、裁判所にて放棄が認められなくなるケースもあります。
3-2.虚偽の特別受益証明書を作成した場合
もし仮に特別受益がなかったにも関わらず、特別受益証明書を作成し、相続登記に使用した場合はどうなるのでしょうか。
この場合、どういった理由で虚偽の特別受益証明書が作られたかで、その証明書が有効か無効かに分かれます。
有効性を判断するための厳密な決まりはありませんが、過去の事例から見ると原則的に有効となることが多いようです。
逆に無効とされた判例ですと、周囲の人に恐喝されて署名・押印をせざるを得なかった場合や、他人が署名も押印も偽造した場合など、著しく不正な行為をした場合が多いです。
つまり、きちんと内容を確認せずに、言われるがまま特別受益証明書の署名・押印をしてしまうと、特別受益なんてうけていないのに、相続するはずだった不動産が相続できなかった・・・なんてことも十分に起こりうるのです。
しっかりと内容を確認し、不安でしたら「相続発生後の遺産分割協議まで待ってほしい」と申し出るのも1つの手かもしれませんね。
4.作成方法
特別受益証明書に決まったフォーマットはありません。
ですので、次にご説明する記載事項と注意点を守れば、自分で作成することができます。
サンプルフォーマットもご用意しましたので、ぜひご活用ください。
4-1.記載事項
特別受益証明書には、以下の項目を記載する必要があります。
①一番上に「特別受益証明書」
②特別受益があったことが明確になる文
③被相続人の氏名