しかし、遺言書が無効な場合や、各相続人の同意があるときには、遺言書によらず遺産分割協議によって遺産を分割することも可能です。
また、遺産分割協議が終わった後に遺言書が見つかった場合には、遺言書の内容に従うか、もう一度、遺産分割協議をやり直さなければならないという事態にもなりかねません。
遺品整理等をする際に、遺言書が残されていないか調べるようにしましょう。
そして、仮に遺言書が残されていた(公正証書での遺言でない)場合は、すぐに開封してはいけません。家庭裁判所の検認を受けて初めて遺言書の存在が確認され、偽造・変造がないことが担保されることになるので、気をつけてください。この点、公正証書での遺言書であれば、検認が不要ですので、すぐに故人の遺志が確認でき安心です。
4-4.預貯金の手続きに使う場合
前述しましたが、金融機関の名称、支店名、口座番号を正確に記載するようにしましょう。
残高を記載しなくても分割協議書としては有効なのですが、後のトラブルを避けたい場合は事前に残高照会をして金額を記載しましょう。
4-5.不動産の登記に使う場合
事前に登記簿謄本(全部事項証明)を取り寄せ、謄本の記載通りに正確に記入しましょう。
記載に間違いがあると法務局での手続きが進められないため、不動産の表記は特に慎重に行ってください。
4-6.相続税の申告が必要な場合
通常、遺産分割協議書の作成に期限はありません。しかし、相続税の申告が必要な場合は、申告期限(相続発生から10カ月)までに分割をし、相続税の申告・納付までを行わなければなりません。
もし申告期限を過ぎてしまった場合、税制上の特例や控除が受けられないほか、延滞税がかかる場合がありますので、速やかに遺産分割協議を行うようにしましょう。
4-7.保管について
遺産分割協議書の作成は1通だけでも構いませんが、相続人全員が平等に保管できるよう、相続人の人数分、原本を作成し、各自が保管しておくことが望ましいでしょう。
5.特殊な場合
5-1.相続人に未成年者がいる場合
相続人の中に未成年者がいる場合は、親権者が代理で遺産分割協議に参加しますが、親権者も相続人である場合は、両者は利害が対立する関係にあります。そのため、未成年者には特別代理人を立て、代理人が遺産分割協議に参加します。特別代理人を立てるには、家庭裁判所に申立てを行います。
5-2.相続人に認知症の方がいる場合
相続人の中に、認知症等により判断能力が不十分な方がいる場合は、その方のために、成年後見人(判断能力の程度によっては保佐人・補助人)を立て、後見人が代理で遺産分割協議に参加します。後見人を立てるには、家庭裁判所にて申立てを行います。
5-3.海外に相続人がいる場合
海外に住んでいる相続人の方は、印鑑証明や住民票をお持ちでない場合があります。
そのため、領事館にて印鑑証明の代わりとなる「サイン証明書」と、住民票の代わりとなる「在留証明書」や氏名・住所の記載のある認証を受けた「宣誓供述書」等を取得してもらうこととなります。
また、日本にいる相続人も注意しておくべきことがあります。
直接会って話し合いをすることもできない場合にはメールや電話でのやり取りとなりますので、伝え漏れがないように、確認をしっかりしましょう。
各種書類の郵送などにも、時間や費用がかかります。書類の不備等で相続税の申告期限に間に合わなくなる事態を防ぐため、通常の場合よりも慎重に手続きを進めるように心がけましょう。
6.その他
遺産分割協議は一定の条件のもとに、取り消しや解除が可能です。また、遺産分割協議書を作成しないケースもあります。どのようなケースか見てみましょう。
6-1.やり直しをする場合
6-1-1.全員の合意がある場合
一度有効に成立した遺産分割協議でも、相続人全員の合意があれば、やり直しが可能です。ただし、やり直しをした場合には、相続人間において贈与税等の課税が生じる可能性があります。ただし、不動産取得税に関しては、判例によると再分割時期にもよりますが、課税されない場合もあるようです。
6-1-2.以前の遺産分割協議を無効とする場合
以下のような場合には、遺産分割協議は無効、やり直しとなります。
- 詐欺や脅迫によって遺産分割の合意がなされた場合
- 錯誤(遺言書の存在を知らずに遺産分割協議を行った等)があった場合
- 一部の相続人を除外して協議がなされた場合
この場合、贈与税は課せられません。ただし、修正申告や更正の請求が必要になる場合があります。
6-2.遺産分割協議書を作成しない場合
以下のような場合には、遺産分割協議書の作成は不要です。
- 法的に有効な遺言書によって遺産分割の方法が指定されている場合
- 法定相続人が一人の場合、(相続人のうち一人を残して、他の相続人全員が相続放棄をした場合も同様です)
- 法定相続分通りに財産を分割し、共有名義で登記する場合
まとめ
相続手続きには多大な労力と時間がかかります。その上、遺産分割協議は相続人間での意見の食い違いが生じやすい上に難しい法律用語も出てくるため、非常に大変な思いをされる方も多いものです。
今回の内容で遺産分割協議のポイントをご理解頂き、遺産分割やその後の手続きを円滑に進めるためのご参考としてください。
著者:相続ハウス 山下 雅代(相続診断士)
監修:司法書士 赤坂トラスト総合事務所 市倉 伯緒(司法書士)