例えば、被相続人には実の子供が2人いましたが、遺言によって財産のすべてを第3者に渡すと記載していたとします。
遺言の内容だけを尊重するのであれば、財産はすべて第3者に渡ることになります。
しかし、相続人が実の子供のみの場合には、財産の2分の1が遺留分として認められています。
そのため、2人の子供が遺留分滅殺請求をすれば、第3者には財産の半分が、そして2人の子供にはそれぞれ4分の1ずつ、合わせて2分の1の財産が分配されることになるのです。
ただし、このケースは、前の章で紹介した表における「子供のみ」の場合での配分です。
相続の形によって子供に配分される財産の割合は変わり、受け取れる遺留分も変化するので、注意してください。
2-2.離婚と再婚によって権利の侵害が生じた場合
離婚と再婚によって、遺留分滅殺請求が必要になるケースもあります。
例えば、被相続人は離婚と再婚の経歴があり、現在の妻に遺産のすべてを相続させようとしていたとします。
しかし、前の妻との間に子供がいた場合には、その子供にも遺留分が認められています。
もしもその子供が遺留分滅殺請求をした場合には、遺留分である4分の1の財産を受け取ることができるのです。
3.遺留分滅殺請求に必要な手続きとは
さまざまなケースで用いられる遺留分滅殺請求ですが、請求が認められるためには、きちんと手順を守ることが大切です。
ここでは、遺留分滅殺請求の手続きを行う際に覚えておいてほしい情報についてお伝えします。
3-1.遺留分滅殺請求の手順
遺留分滅殺請求を行う場合には、まず遺留分滅殺請求を行っている相手に遺留分の返還を求める意思表示を行います。
方法に具体的な決まりはありませんが、内容証明郵便によって通知を行う方法がおすすめです。
相手方が返金に応じてくれたのなら、合意書を取り交わしたり、遺産分割協議書を作成することで、遺留分滅殺請求が成立します。
しかし、この求めに応じなかった場合には、上記の書類を家庭裁判所に提出して、調停を申し立てることになります。
調停の話し合いで決着がつけば、調停証書を作成して遺留分を返還してもらえます。
しかし、それでも決着がつかなければ、地方裁判所(遺留分の金額が140万円以上)か簡易裁判所(遺留分の金額が140万円以下)に訴状を提出して、提起する必要があります。
3-2.遺留分滅殺請求に必要な書類と費用
遺留分滅殺請求を行う際には、家事審判申立書に必要事項を記入する必要があります。
また、「土地物件目録」「建物物件目録」そして「現金、預・貯金、株式などの財産の目録」など、被相続人の財産について書かれた書類も提出しなければいけません。
これらの書類のうち、申立書と「土地物件目録」「建物物件目録」は、裁判所の公式ウェブサイトからダウンロードすることができます。
●裁判所ウェブサイト:遺留分減殺による物件返還請求調停の申立書
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_kazityoutei/syosiki_01_35/index.html
他にも、被相続人と申立人の戸籍謄本の提出も欠かせません。
申立にかかる費用としては、収入印紙代の1,200円と、連絡用の郵便切手代が必要になります。
切手代は申立をする家庭裁判所によって異なります。
3-3.遺留分の金額の計算
遺留分の金額を計算するためには、その基礎となる被相続人の財産の金額を求めなければいけません。
遺留分の金額の計算は、被相続人が亡くなっていた時に持っていた財産の価格に「被相続人が亡くなる1年以内に行われた贈与」「遺留分を侵害することを知って行われた贈与」「遺留分を侵害することを知らないで行われた贈与」「遺留分を侵害することを知っていた上で行われた売買」といった贈与の金額を加えて、そこから被相続人の債務の金額を引きます。
こうして求めた基礎の金額から遺留分の割合を乗じることで、遺留分の金額を求めることができます。
一例として、実際に計算してみましょう。
例えば、被相続人には1億円の財産と4,000万円の債務があり、相続人として3人の子供がいたとします。
この場合、子供1人の遺留分の金額はいくらになるでしょうか。
まず、財産から債務の金額を引きます。
1億円-4,000万円=6,000万円
この6,000円という金額をもとに、遺留分の計算を行います。
今回の相続では相続人は子供だけなので、3人の子供全員に対して認められている遺留分は財産の2分の1です。
6,000万円×1/2=3,000万円
最後に、この3,000万円を法定相続人の割合で乗じて、1人あたりの遺留分を算出します。
3,000万円×1/3=1,000万円
となり、1人あたりの遺留分が1,000万円になることがわかります。
4.遺留分滅殺請求を行う際には時効に注意!
遺留分滅殺請求には、期限が定められていることも覚えておかなければいけません。
期限には2種類あり、それぞれ「贈与か遺贈があったと知った時から1年間」「相続が開始した時から10年間」と定められています。
これらの期限を過ぎると遺留分が侵害されていることが判明しても請求ができないので、注意しなければいけません。
5.まとめ
遺留分滅殺請求の手続きには少なからず手間がかかる上に、場合によっては訴訟にまで発展してしまう可能性も含まれており、相続人にとっては負担のかかる作業であると言わざるを得ません。
しかし、保障されている財産を確実に受け取るためには、おろそかにすることができない作業であることも確かです。
遺留分滅殺請求について充分に理解し、後悔しない相続を行ってください。