例えば、将来、子供たち全員に平等に財産を分け与えたいが、財産の大半を不動産が占めていて現金資産等が少なく、平等に分けることが難しい…というような場合に、その不動産を相続人全員の共有名義にすることは望ましくありません。
共有不動産は共有者全員が協力しないと処分できず、後に問題が起きやすくなるからです。
そこで、信託契約により、長男を受託者に設定し、受益権を子供たち全員に設定すると、共有者(又は共同相続人)としての財産的価値は、平等を実現しつつ、管理処分権限を共有者の一人に集約させることで、不動産の適切な管理を行うことができます。
後継遺贈が可能になる
遺言では、自分の財産を引き継がせるところまでしか指定できませんが、民事信託では生前の利益配分から、死後は妻に相続させる、妻の死後は長男に…など、その先の受益者まで事細かに指定することが可能です。(後継遺贈といいます。)
3-3.注意点
民事信託の契約を行えるのは、委託者の意思能力が確認できる時までです。委託者が認知症になってしまってからでは、信託契約を結ぶことができませんので、元気なうちに行うようにしましょう。
4.不動産の贈与時にかかる費用
4-1.不動産取得税
不動産取得税とは、不動産を取得した際に、登記の有無に関わらず課される税です。
この税は、相続による取得時には発生しませんが、贈与による取得時には発生します。
基本となる税額の計算方法は以下の通りです。(いずれも平成20年4月1日から平成30年3月31日までの場合の税率です)
【土地の場合】(取得した不動産の価額※1-控除額) × 0.3%
※1平成30年3月31日までに宅地等(宅地及び宅地評価された土地)を取得した場合は、取得した不動産の価格×1/2を課税標準額とします。
【家屋(住宅)の場合】(取得した不動産の価額-控除額) × 0.3%
【家屋(非住宅)の場合】(取得した不動産の価額-控除額) × 0.4%
※2 控除の種類や控除額は条件により異なります。詳しくは不動産所在地の県庁HPや東京都主税局HPをご確認ください。
4-2.登録免許税
登録免許税とは、不動産の権利の登記等の際に課される税です。
贈与の場合の登録免許税は登記される不動産の価額の2.0%です。相続の場合の登録免許税は0.4%のみですので、相続よりも贈与の方が移転コストは高くなることにも注意しましょう。
まとめ
ここまで、不動産の贈与に関係する各種の特例をご紹介しました。
おしどり贈与や住宅取得資金贈与の特例は居住用の不動産においてのみ適用される制度ですが、相続時精算課税制度は、どちらかというと居住用の不動産よりも、賃貸等の収益を得るための不動産の贈与に向いており、なおかつ現金や株式等、他の種類の財産と組み合わせて使用することができますので、各種特例の特性を見比べながら、効率よく生前贈与を行っていくと良いでしょう。
なお、特例を使用して贈与税が発生しなかった場合でも、不動産取得税や登録免許税等は必要となることと、金銭の贈与を受けて居住用不動産を取得した際の購入諸費用なども必要となることに注意が必要です。
以上の点に気を付けながら、上手な相続税対策をとっていきましょう。
著者:相続ハウス 山下雅代(相続診断士)
監修:税理士法人エスネットワークス
司法書士法人おおさか法務事務所