出生から死亡までの連続した全ての戸籍の取得は、場合によってはかなり煩雑な手続きとなります。
まず被相続人の最後の本籍地の市町村役場にて、被相続人が死亡した時の戸籍(除籍)謄本を取得します。その戸籍から、「一つ前の本籍地」が記載されている箇所を見つけ、一つ前の本籍地の役所にてまた戸籍謄本を取得する…という流れを繰り返します。
死亡時点の戸籍から一つずつ遡って、出生時の戸籍謄本までたどり着くということです。
戸籍が必要な人の婚姻や転居等により転籍回数が多い場合や、遠隔地に籍を置いていた場合、この取得の手間や取得に要する時間が増えていきます。合計で何通取得しなければいけないかというのは、実際に戸籍を収集し終えるまでは分かりません。
被相続人の父母の分や、相続人で以前死亡した者がいる場合はその方々全ての戸籍も収集しなければいけないなど、かなりの時間と労力がかかります。
手書きの戸籍となれば、当時の戸籍係りの文字の癖が強くて、なかなか読みづらいというケースも多々あります。
そのため、下記の書類も含め戸籍等の収集の手間を減らしたい方は、弁護士等の専門家に収集を依頼すると良いでしょう。
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
住民票は被相続人の住民登録地の市区町村役場で、戸籍謄本の付票は被相続人の本籍地の市区町村役場で取得できます。
- 財産を証する資料
被相続人の財産状況を明らかにする書類です。
金融資産であれば通帳の写しや残高証明書等の預貯金・有価証券の残高が分かる書類を、
不動産であれば登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)を添付します。
- 利害関係人と被相続人との利害関係を証する資料
利害関係人が申立てを行う場合に添付します。
利害関係人の戸籍謄本や金銭消費貸借契約書写し等です。
- 財産管理人の候補者の住民票又は戸籍の附票
財産管理人の候補者がある場合に添付します。
住民票は候補者の住民登録地の市区町村役場で、戸籍の附票は候補者の本籍地の市区町村役場で取得できます。
4-2選任とその後の手続き
4-2-1.相続財産管理人選任の審判と公告
家庭裁判所は、提出された書類に基づき、上記の「相続財産管理人の選任の要件」を満たしているかどうかを確認します。審理の結果、相続財産管理人の選任の要件を満たしていると認めれば、相続財産管理人を選任する審判を下します。
相続財産の中から相続財産管理人の報酬を確保できるかどうか不明の場合は、申立人は、相続財産管理人の選任時に相続財産管理人の報酬予定額を家庭裁判所に予納金として納付する必要があります(20万円~)。
家庭裁判所は、相続財産管理人の選任後、速やかに相続財産管理人を選任した旨を公告します。公告は官報への掲載等により2ヶ月間行われます。
4-2-2.相続財産管理人による相続財産の調査・財産目録の作成、不動産の登記
名義人の表示変更
相続財産管理人は、相続財産を調査し、財産目録を作成します。また、不動産の登記を「亡○○○○(被相続人名)相続財産」名義に変更したり、預貯金を解約して相続財産管理人名義の口座に一本化したり、債権を回収したりと、相続財産の管理を行います。
4-2-3.債権者、受遺者への請求申出の催告、公告
相続財産管理人の選任の公告後、2か月経過しても相続人が現れなかった場合、相続財産管理人は、全ての相続債権者および受遺者に対し、2か月以上の一定の期間内に請求の申出をするよう官報に公告を出します。また、この公告の他に、債権者が判明している場合は、公告と同じ内容の催告(通知)を個別に送付します。
4-2-4.相続債権者・受遺者に対する弁済
[4-2-3.]の公告に対して債権者の届出があった場合、相続財産管理人は各債権者の債権額の割合に応じて弁済を行います。一定の期間内に届け出なかった債権者がいる場合、その債権者は、上記の弁済の結果残った財産についてのみ、弁済を受けることができます。(残らなければ、弁済を受けることはできません)。
弁済に必要な金銭がない場合、相続財産管理人が不動産などの資産を競売・売却などにより換価し、弁済資金に充当します。
4-2-5.相続人捜索の公告
[4-2-3.]の公告の届出期間満了後もなお、相続人がいることが明らかでない場合、相続財産管理人は、相続人がいる場合は申し出るよう、相続人捜索の公告を官報に出す請求を家庭裁判所に行います。ただし、後の項に記載する特別縁故者に対する相続財産分与や残余財産の国庫帰属にあてる相続財産が残っていない場合は、相続人捜索の公告は出しません。
家庭裁判所は、相続財産管理人の請求を受けて、相続人がいる場合は6か月以上の一定の期間内に申し出るように、官報に公告を出します。この期間内に相続人からの申出がなければ、相続人がいないことが確定します。
4-2-6.特別縁故者からの相続財産処分の申立て
相続人がいないことが確定してから3か月以内に、家庭裁判所に特別縁故者から相続財産の分与を求める申立てがあり、審理の結果相当性が認められた場合、相続財産管理人は、特別縁故者に対する相続財産分与を行います。
4-2-7.相続財産管理人に対する報酬の付与
相続財産管理人は、家庭裁判所に対し報酬付与の申立てを行います。
家庭裁判所は、相続財産の種類と額、管理期間、管理の難易度、管理技術の巧拙、訴訟・交渉などの有無・成果、残った相続財産の有無と額、相続財産管理人の職業などを考慮し、報酬額を決定します。
相続財産管理人は、家庭裁判所が決定した報酬額を、相続財産あるいは予納金の中から受け取ります。
4-2-8.相続財産の国庫帰属
[4-2-1.]~[4-2-7.]の手続きを終えてもなお相続財産が残っている場合、残った相続財産は国庫に帰属されます。相続財産管理人は、残った相続財産を国に引き渡す手続を行います。
4-2-9.管理終了報告
相続財産管理人の管理業務が終了したら、相続財産管理人は、家庭裁判所に対し「管理終了報告書」を提出します。これにより、相続財産管理人が選任されたあとの手続が完了します。
5.まとめ
相続財産管理人の概要と、相続財産管理人選任申立の方法、選任後の流れをご説明しました。
相続財産管理人は、裁判所から選任され、公平迅速に債権者への支払や相続財産の管理清算等を行ってくれます。
被相続人の債権者・受遺者・特別縁故者等の立場で、貸付の精算や遺贈・財産分与を希望する方は、家庭裁判所に相続財産管理人選任申立を行いましょう。被相続人の財産が残っていれば、相続財産管理人から支払を受けられる場合があります。
また、相続財産管理人選任申立の際には、被相続人の出生~死亡までの全戸籍を家庭裁判所に提出する必要があります。申立をお考えの方は、まず被相続人の戸籍調査を行う必要があるということと、一連の手続きは順調に進んだとしても通常1年以上の期間がかかること、そして選任時に相続財産管理人の報酬予定額を家庭裁判所に予納金として納付する必要があるということにご注意下さい。
著者:相続ハウス 山下雅代(相続診断士)
監修:司法書士法人おおさか法務事務所