「名義預金」という言葉を耳にしたことはありませんか?
自分に何かあったときに残された家族が困らないように、少しでも節税できるようにと、自分の口座から妻や子の口座へコツコツと預金を移しておいた。家計のやりくりをしていた妻が、毎月の給料をやりくりして余った分をこっそり貯めておいた。これらのお金の移動が、相続のときに名義預金としてみなされてしまったという事例を、数多く聞きます。
せっかく生前贈与したつもりが、名義預金として後になって税務署から追徴されてしまっては、意味がありません。
今回は、名義預金と贈与のちがい、名義預金とみなされないためのポイントや名義預金になってしまった事例についてご紹介します。
1. 名義預金とは
名義預金とは、配偶者や子・孫などの名義で預金をしているもので、収入から考えると、実質的には真の所有者が被相続人である預金のことをいいます。
つまり、名義を借りているだけの状態、ということです。
この「名義預金」は、被相続人の財産と判断され、被相続人の相続の際には相続財産としてみなされてしまうため、課税の対象となります。
税務署は、管轄内の個人や法人が正しく税金を納税しているかどうかを常にチェックしています。
中でも特に厳しくチェックされているのが相続税の申告だと言われています。一般的に、相続税申告をされた方の3割ほどが税務調査を受けると言われており、これは所得税の税務調査の20倍近くの数字に及びます。
そして、税務調査に入られた相続のうち、8割から9割のケースで申告漏れが発覚し、追徴課税をうけるようです。この中で申告漏れが最も多いのが「現金、預貯金」で、全体の約3割を占めています。
税務署にチェックされるポイントのひとつに、その預金が被相続人のものなのか、家族に贈与がされているのか、という点が重要になってきます。
贈与と名義預金は何が違うのか?を見ていきましょう。
2. 名義預金と贈与のちがい
2-1.贈与とは
例えば、誰かが家族や恋人に無償で物やお金を贈ったとします。これを贈与といいます。
また、贈られたお金や物が年間110万円を超えた場合には、贈与税がかかります。
2-2.贈与と認められるためには
贈与とは、「当事者の一方が自己の財産を相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」と民法で定められています。
要するに、
・あげますという意思表示
・もらいますという意思表示
これら2つが揃って初めて「贈与」が成立するのです。
2-3.贈与契約書とは
贈与をする方と、される方とが、合意をすると贈与契約が成立します。
このとき口約束でも良いのですが、贈与は、贈与契約をした時点では当事者同士しか知らないということが多くあります。ですが、他の家族等が認識するのは、主に相続が発生したときであったりします。贈与契約をした当事者の一方は亡くなっていますから、もう一方の主張でしか他の相続人等は確認をすることができません。
ですから、後で親族間でのトラブルを防いだりするためや、税金対策のためにも、贈与があったと当事者双方の意思を証明する契約書として、書類に残しておくことをお勧めしています。
契約書には、
- 誰に
- いつ
- 何を
- どんな条件で
- どうやってあげるのか
上記5点を、明確に記します。贈与の内容があいまいですと、後になって、親族間でもめ事になったり、税務署に否認されたりします。
- 誰に:子供、孫、親、兄弟の名前をはっきりと書きましょう。できれば、戸籍に記載されている名前と同じ名前にして、関係や生年月日を入れましょう。
- いつ:通常、締結日とは、贈与の成立した日にします。税法では、時期や、あげる方、もらう方の年齢などが要件となって税率が決まるため、この部分はとても重要です。
- 何を:贈与する物を具体的に書きましょう。
- どんな条件で:相続では、自動的に相続人に財産が移転しますが、贈与はお互いの契約です。そのため、どんな条件でもつけることが出来ます。「自分の介護をしてくれたら、死亡した時に」や、「会社を引き継いでくれたら」など、お互いが納得をすれば、契約することができます。
- どうやってあげるのか:お金であれば、現金を手渡しなのか、銀行振り込みなのか、などです。仮に銀行振り込みをしていた場合には、通帳の印字が必要になります。
2-4.注意点
贈与契約書は、贈与を成立させ、親族間でのトラブルを防ぐためや、税務署から否認されないことなどに作成する大切な書類です。ですが、遺言書など違い一度契約すると、破棄することが難しいことをご留意ください。遺言書は、自分が書き直したいと思った時にいつでも書き直すことができますが、贈与契約書は、贈与をされる側の方が同意をしてくれないと、後になって契約書を修正することが困難となります。
一時の感情で贈与契約をしてしまい、後で修正できずに困ったという事態にならないように、慎重に贈与契約を交わすようにしてください。
また、何年かに分けて贈与をする場合には、その都度契約書の作成が必要になります。
3. 名義預金とみなされてしまうポイント
税務署は、調査に入る前や調査の中で、色々な情報をヒアリングしてくると思われますが、特に以下のポイントに注意して調査を進めてくると思われ、これが判断の基準とされています。
ご自身が家族名義で開設されている口座の状況、また、自身の名義で家族が開設してくれた口座の状況を比べて、改善すべき点はないか、確認してみてください。
3-1.預金の管理・運用者
贈与とは、相手に財産を渡して、自由に使うことが出来て初めて贈与といいます。
ですから、預金通帳やキャッシュカード、印鑑は本人が管理するようにしましょう。通帳や印鑑の場所を、名義人本人が把握していなかったり、そもそも、名義人本人が口座の存在を知らなかった場合には、まぎれもなく名義預金と判定され、亡くなった方の財産として扱われてしまいます。
ですから、財産を受け取る側の方は、自身の名義で口座が開設されていたとした場合、通帳と印鑑はご自身で管理をするようにし、自由にお金を引き出して運用していたという実態を残しましょう。
3-2.口座開設時の印鑑
亡くなった方の家族名義の口座開設時の印鑑が、亡くなった方の印鑑で、本人(亡くなった方)の通帳に登録されている印鑑と同じものであった場合、名義預金とみなされる可能性が高くなります。
3-3.財産の出所
名義人になっている方が、専業主婦や子・孫だった場合、税務署にはその資金の出所を問われます。
その時に、亡くなった方が遺族のためを思って、生前に積み立ててくれた預金ですと主張したとしても、それはもとを正せば亡くなった方の財産をしてみなされるです。
であれば、贈与契約書を見せて下さいと言われてしまうでしょう。
また、例として聞くのが、専業主婦の方が家計をやりくりして貯めたお金だから自身の財産であると主張される方もいますが、これも相続財産として含まれます。
税務署は亡くなった方や残された方の預金を把握することが可能です。基本的に、全ての金融機関に対して照会を行い、照会を済ませた上で調査に入ると言われています。