このケースで特に多いのが、借金があることを知らずに相続登記(不動産名義変更)をしてしまい、後で借金の存在を知っても相続放棄できなくなってしまうケースです。
相続放棄は全財産が対象ですので、財産の一部である不動産を名義変更している時点で遺産分割が行われたことになります。
そのため、相続登記をしたら相続放棄をすることはできなくなってしまいますので注意が必要です。
5-2.相続放棄は生前にはできない
相続放棄は、相続権が発生してからする放棄の手続きになりますので、生前にすることはできません。
理由としては、相続放棄自体が、誰かが亡くなると発生する「相続」を「放棄」することだからです。
したがって「相続」が発生していない限り放棄もできないのです。
詳しくはこちらをご覧下さい。
【相続放棄は生前にできない!代わりにできる対策とできない事】
5-3.相続放棄が完了しても金融機関等には通知されない
相続放棄の手続きが完了しても、それは自動的にどこかに通知されることはありません。
例えば被相続人が銀行から借金をしていた場合、相続放棄をしていたとしてもそれを銀行に伝えていなかった場合はその返済の請求が相続人に届いてしまいます。
もちろん請求が来た後でも、相続放棄したことを銀行に証明すれば借金を請求されることはありませんが、手間がかかるため相続放棄をしたら速やかに伝えましょう。
5-4.遺産分割協議書で相続しないと書いても、借金まで相続しなくていい訳ではない
1でご説明した通り、遺産分割協議書で相続しない旨を書いた場合は、相続権自体は消滅しません。
あくまでも「遺産分割協議書の書かれている財産は相続しない」というだけですので、後で借金が見つかった場合はその借金を背負うかどうか再度相続人で集まって決めなくてはいけません。
また、遺産分割協議書内で「相続しない」と書いても、これは貸した人に対して借金自体を返さなくていいことにはなりません。
それを知らずに「借金が見つかったけど遺産分割協議書で相続しないと書いたからいいや」と放っておくと、3ヶ月を過ぎてしまい相続放棄ができなくなってしまいます。
そうなるともう自動的に借金を相続したことになってしまい、相続人全員に返済の義務が生じてしまうのです。
借金を背負いたくない場合は、遺産分割協議書ではなくきちんと家庭裁判所で相続放棄の手続きをしましょう。
6.まとめ
ここまで相続放棄についての総まとめをご説明してきましたが、参考になりましたでしょうか。
相続放棄は他の相続人の同意は法律上必要ありませんので、相続放棄したいと思ったら全て1人で手続きすることができ、相続放棄の手続き自体はそんなに難しいものではないかと思います。
ただし、相続放棄とは「相続権を失う」という非常に重い意味を持っていますので、いくら手続きが難しくないからといって放棄するという判断まで簡単にしてしまうと、相続権を失うので自分だけではなく子どもや孫の世代にまで影響が及ぶこともあります。
そのため、相続放棄をする場合はメリットとデメリットを知った上で、後の影響までしっかりと考えてから行うことが大切です。
そして相続放棄をするかしないかは自分だけで決めず、他の相続人や周囲の人または専門家に一度相談してから手続きを行うようにしましょう。
著者:相続ハウス 彼末 彩子(相続診断士)